大衆幻想によって日本は動かされている--『革新幻想の戦後史』を書いた竹内洋氏(関西大学教授、京都大学名誉教授)に聞く
──仲間でいたい?
戦後史は圧倒的に丸山眞男の影響下にあった。論壇では戦争への悔恨が知識人を支配していたものの、世論調査を丹念に見ると違う。意表を突く結果がいっぱいわかる。当初は敗戦に無念の声も多く、再軍備に賛成の答えも少なくない。それをこの本では、知識人を代表する丸山的な戦後の迎え方と、草の根庶民の敗戦感情を代表する北レイ吉(元衆議院議員、北一輝の弟)の迎え方で対比させた。総合雑誌のバックナンバーだけで戦後日本史を見るのは最も危険なことだ。
戦中戦前でも、丸山の書くようにインテリ皆が変な戦争だと思ったことは絶対にありえない。東大生の読書調査などを見たらはっきりする。それに戦争でインテリの就職状況も現実によくなっている。調査結果からは、東大生にしてもある時期までは戦争を後押ししていたことがわかる。しかも戦前戦後は断絶せず、通低の思想ではつながっている。戦前の知識人は、また活動する。戦後史を知る際には戦前史もきちんと見ないと実像はわからない。
──『世界』は進歩的な雑誌になって売れなくなったともあります。
『世界』は、当初はニュートラルでアカデミックな感じの内容だったが、平和問題談話会がベースになってから変わった。その一方で読者数も減った。『世界』の読者層は学校の先生、学生。世論は『文藝春秋』のようなところにあったのでは。
──京都の旭丘中学校事件にかなりのページ数を割いています。
今の日本共産党は以前の民社党にしか見えないかもしれないが、当時は過激だった。55年までは偏向教育で革命戦士を育てようとしていた。日教組講師団がいて、進歩的教師があおっている。理論的な背景は東大教育学部の進歩的教育学者たちだった。民主教育と称していたが、共産党の教育戦略にのっとったものだ。そういった時代背景もあった。