大衆幻想によって日本は動かされている--『革新幻想の戦後史』を書いた竹内洋氏(関西大学教授、京都大学名誉教授)に聞く
──福田恆存を評価していますね。
キャンパスでは言えなかったが、愛読した。彼の言説でいちばん印象に残っているのは、保守は主義ではないということ。伝統を尊ぶとか知恵を尊ぶと声高に言うのは保守ではない。生き方として保守があると。それが今でも頭にある。正統保守ではないが、戦後の論壇のつきものがついたような状況に、冷や水をかけた。
──小田実については。
最初の頃、当時の左の基準が高かったせいもあるが、右の比較的話のわかる人と理解されていた。初期の頃に書いているものはしなやかで、左右に距離を取って、自分の世代のよさを書く。どんどんかたくなな人になったが。偉人ばかりの知識人論ばかりだったときに、それよりインテリのほうが問題とした『日本の知識人』に、当時大いに共鳴した。
──終章に石坂洋次郎が出てきます。
石坂に代表される大衆モダニズムが革新幻想と連動、むしろ後押しした。戦後、彼ほど読まれた小説家はいない。映画化作品は50本を超える。石坂はハイカラな都会生活を舞台にした。特徴的なのは主張する女性。丸山は読まなくても石坂の本は読んだ人も多い。「草の根の丸山眞男」だった。
──現在進行形の幻想もある?
大衆幻想だ。今は学歴からいえばほぼ全員が高校に入っている。昔のように、学歴の高い人と、小学校しか出ない人とがいるのではない。今は誰もがインテリといえばインテリ、大衆といえば皆、大衆。エリートとインテリの境目もなくなっている。