日本のビジネスパーソンが、上司やトップの顔色を気にして「休みたくても、休まない」という選択をする背景には、企業の中に「1980~1990年代の成功体験」が「レガシー」(遺産、伝統)として根強く残っていることも関係しています。
1980~1990年代は、日本企業が世界で最も強かった時代です。
その頃は、経営陣の指示通りに仕事をすれば、利益が上がる時代でしたから、働く時間と人を増やして売り上げを伸ばす……という「労働集約型」のビジネスモデルが主流となり、日本人は誰もが「たくさん働く=たくさん儲かる」と考えていました。
労働集約型とは、人間の労働力への依存度が高く、お金や機械、設備よりも、人間の手による仕事量が多いビジネスを指します。
ビジネスの主要部分を労働力が占めているため、売り上げに対する人件費の比率が高く、売り上げを増やすためには、そのぶんだけ労働力が必要になるのです。
「たくさん働く=たくさん儲かる」という考え方は、逆の視点から見れば、「働く時間を減らす=売り上げが下がる」という価値基準を生み出すことになり、「休む→会社の成長に寄与しない」→「サボっている」という発想に結びつきます。
こうした価値観を実体験として学んできた人たちが、現在では企業のトップや経営幹部になっているのです。
多くのビジネスパーソンが、「疲れたくらいで、休むなよ」という無言の圧力を感じてしまうのは、上層部の価値観が30~40年前のままアップデートされていないことが原因といえます。
「休んでいいぞ」を素直に受け取れない
働き方改革が加速化しないもう1つの理由は、日本企業の70%が「労働集約型」のビジネスモデルであることです。
多くの企業が、基本的には「働く人と働く時間を増やせば、売り上が上がる」という構造になっていますから、働き方改革によって労働時間を減らすと、ダイレクトに業績に影響が出てしまいます。
現在、日本企業の働き方改革の取り組みは、残業時間の短縮を柱とした労働時間の削減が中心になっているため、なかなか改革が進まないのです。
数多くの企業で、日常的に繰り広げられていのが、チームリーダーがメンバーに対して、「みんな、もうちょっと休んでいいぞ、俺は働くけど」と言っている光景です。
会社から「法令遵守」と「労働時間削減」を厳命されている上司は、何とか部下を休ませようとしますが、業績への影響を考えると自分では休むことができません。
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