和田秀樹が教える「60歳から頭がよくなるコツ」 話が上手な人とそうでもない人の決定的な差

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何らかの目的を持って読書をする場合は、章単位でじっくり読むことをおすすめします。速読できるのが格好いいと思われる風潮がありますが、一冊全体を素早く通読できることが善というわけではありません。

むしろ、まとめる力を身につけようと思ったら、パラパラと読み流すのではなく、要所、要所で立ち止まり、「ここまでの部分をまとめてみよう」と振り返るような、「部分熟読」を目指してみてください。パートごとに立ち止まりながら、要約してみる。この繰り返しで、まとめる力がおのずとついていきます。

たとえ話をうまく使う人の話はわかりやすい

「たとえ話を効果的に使う」というのも、わかりやすく話をするためのポイントだと思います。たとえば行動経済学において、「人間は損か得かに反応する、特に損に反応する」という説があります。人はそれぞれ「参照点」と呼ばれる基準を持っています。これは損か得かを判断する基準点のことで、個人差があるものです。この参照点を説明するために、例を出してみましょう。

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たとえば、100億円持っている人が1万円損をしたとします。一見、大した損害ではないのでは?と思いそうなものですが、その人の参照点は100億円ですから、そこから1万円の損失が出ると、ものすごく損をしたように感じてしまうのです。

一方、1000円しか持っていない人が、100円得をしたとします。この人は参照点が1000円ですから、そこから100円儲かっただけでも、とても幸せに感じるということです。

あるいは、若い頃にお金持ちだったり、異性にモテたり、出世街道をひた走ったりしていたような人は、仮に高齢になってさまざまなものを失ったりした場合、何でも持っていた昔と比較して、今の自分をみじめに感じてたまらなくなってしまうかもしれません。

一方、若かりし頃、ものすごく貧乏で、異性にもモテず、満足のいかない人生を送っていたような人が、高齢になって特別養護老人ホームに入ったとします。そうすると職員の人は親切にしてくれる、熱さ寒さも感じず快適な室温で過ごせる、それまでよりはるかに美味しい食事ができるといった感じで、人生の最後に大きな喜びを感じることができるわけです。つまり、高齢になるにつれ、参照点は下げていったほうが、幸せの基準が下がり、心は満ち足りていくということです。

ここでは「参照点」を説明するために、たとえ話を活用してみました。たとえば経済の話であれば難しい経済用語をふんだんに使って話すより、こういった例を効果的に使ったほうが、はるかに物事をわかりやすく伝えることができることでしょう。このような話術こそ、年齢を重ねた人に求められる力なのではないかと思います。わかりやすくたとえ話をする場合にも、土台となるのはまとめる力です。まず内容を自分で咀嚼し、骨組みをつかんでこそ、そこに肉付けをしていくことができるのです。

和田 秀樹 精神科医

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わだ ひでき / Hideki Wada

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、現在は和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『60歳からはやりたい放題』(扶桑社新書)、『老いたら好きに生きる』(毎日新聞出版)など著書多数。

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