"56のサッカーチーム巡る"自閉症の子と父の挑戦 ドイツでヒット『ぼくとパパ、約束の週末』

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それではその中から何を基準に、ひとつの“推しチーム”を選び出すのか。彼が打ち出したルールは以下の8個となる。

・何があっても最後まで観戦する
・サポーターの席に座る
・選手は地味なシューズであること
・スタジアムの広告が控え目であること
・ネオナチのサポーターは禁止
・残念なマスコットキャラを有するチームは禁止
・環境や持続可能性を重視していること
・選手が円陣を組まないこと

かくしてパパとジェイソンの“週末の旅”がはじまった。だか観客が熱狂状態にあり、サポーター同士の距離が近いサッカースタジアム内では何が起こるか分からず、時にパニックを起こしそうになることもある。

ぼくとパパ、約束の週末
突発的な出来事に対処できず、時にはスタジアムでパニックに陥ることもあったが、それでもジェイソンは“週末の旅”をやめようとはしなかった©2023 WIEDEMANN & BERG FILM GMBH / SEVENPICTURES FILM GMBH

それは彼にとっても簡単なことではなかったが、それ以上にサッカーの“予測不可能”なところや、サポーターのふるまいなども、彼にとっては新鮮な驚きであった。

そうやって毎週末ごとに息子と寄り添うことであらためてママの大変さを実感し、意識が変わっていくミルコ。果たしてジェイソンは“推しのチーム”を見つけられるのだろうか——。

空港で手に取った一冊の書籍から着想

本作の企画は、本作脚本家のRichard Kropfが空港で手に取った一冊の書籍から始まった。それはジェイソンたちが自閉症への理解を深めるために書き記した書籍であったが、これはまさに映画の題材にふさわしいと感じた彼は、すぐにジェイソンたちに連絡をとり、映画化にこぎ着けた。

そして脚本づくりにおいても、ジェイソンが全面協力。緊密に連絡をとりあいながら、映画で描かれたエピソードについて、自閉症の細かい症状などについて、みっちりとレクチャーを行った。

また劇中でジェイソンがパニックになるとノイジーな効果音が鳴るという演出が施されていることで、自閉症の患者が何に不快感を抱くのか、観客も追体験できるようにもなっている。実際にドイツでもこの映画を観て、自閉症の人の頭の中がどうなっていて、何に苦しんでいるのか、ということをより深く理解した、という声もあったという。

そして本作を撮影するにあたり、ドイツのサッカーリーグ、ブンデスリーガを運営するドイツサッカーリーグ機構(DFL)の協力を得て、ドイツ各地のサッカースタジアムでのロケも敢行。ジェイソンたちが訪れる、それぞれのスタジアムやサポーターの特色が垣間見えて、旅情気分も味わえる。

世界的に見ても自閉症はけっして珍しい病気というわけではない。だが一見すると、彼らが何に苦しんでいるのか、というのはなかなか分かりづらい。そこでまずは映画を観るところから理解を深めていくのはどうだろうか。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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