フランス新首相の就任はEU瓦解への前奏曲だ 「民主主義を守る」戦争を止められないNATOとEUの限界

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こうした民主主義のねじれの問題は、フランスだけにとどまらない。国民の支持を得た政権党が、EUで国民の意思をないがしろにされればEU離脱は避けられず、EU自体の存続の危機となるからである。

ウクライナ戦争支援、すなわちNATOの武器支援の問題において、多くのEU国民が巻き込まれるのではないかと不安を持つ中、EUそして多くの政権党は積極的支援策を打ち出してきた。その理由は「民主主義を守る」ということにあった。

民主主義が瓦解しているEU

ところが、その民主主義がEU内で足下から崩れつつあるのだ。では各国の政権党のみならず、EUを動かしているものは何なのか。それがグローバリゼーションと新自由主義である。そしてそれが、EU内での経済停滞の深刻さと相まって、各国の国民の不満を引き出しているのである。

NATOはEUだけのものではない。EUは政治的には独立していても、軍事的にはNATOに従属している。防衛という点で見れば、判断はEUだけでなくNATOに握られているといってよい。

EUの各国民は、EUという超国家的な機構によって主権を奪われているだけでなく、NATOという軍事機構によって主権を奪われているともいえる。

NATOは、西側諸国の軍事機構である。その機構は西側の資本主義経済を守る軍事機構であるといってよい。それが民主主義の拡大と称して、世界に侵攻する限り、それ以外の諸国との摩擦と戦争は避けられない。

そうなると、各国の国民には、もはやこの戦争は止められないのではないかという不安がよぎる。戦争を遂行し続けるものは、国民の上、さらにはEUの上にある機構であれば、この戦争は資本主義経済、西側経済を守るための、国民不在の永久戦争ということにもなりかねない。

しかもその戦争を正当化するスローガンが「民主主義を守る」ためというのだから、ブラックユーモアとしかいいようのない現状なのである。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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