フランス新首相の就任はEU瓦解への前奏曲だ 「民主主義を守る」戦争を止められないNATOとEUの限界

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バルニエは、調停役(ネゴシエーター)として知られる。イギリスのBrexitを各国対応ではなく、EU全体の対応にしたのが彼で、イギリスだけの脱退ですんだのは彼の手腕によるところ大であったと言われる所以はここにある。

マクロンを含めEU内の政権は、EUという国家を超える力で、国内の政治を乗り切ろうとしている。たとえ国内の選挙で敗北しても、EUという錦の御旗の前で、各国の国民に譲歩させるのである。その意味で、フランスの首相にEUの長い経験のある人物を置くことは、マクロンにとって都合がいい。

しかし、ここに大きな問題が含まれている。各国の主権がEUの主権によって制限されてしまうという問題である。

EUの主権に縛られる加盟国の主権

この問題は、20年前にEU憲法批准をめぐってなされた反対意見の中に含まれていた、EUを構成する国家の国民主権問題である。EUが国家であれば、国家は解体し、国民はEU国民となる。

しかし、現実にはEUは国家調整機関にすぎない。もちろん、さまざまなEU規制が国家の自治権を拘束していることも確かだが。だから、EU憲法批准が各国で大きな問題になったのである。

マクロンが国内で劣勢になった権力を、EUという虎の威で克服しようとしていると見られても仕方がない。EU議会においてフランス選出の議員の多くは反マクロン派であるとしても、マクロン自体はEU全体の多数派に属している。

さらにバルニエは、保守派である。保守派は経済を握る資本家層にとって受けがいい。国民の声とは裏腹に、国家をたぐる上層の人々の意にかなった人物だといっていい。

となると、マクロン政権は大統領を辞めない限り、どんなに選挙で敗れても国家を自由に操れることになる。1995~2007年のシラク政権時、EU憲法にフランス国民の多数が反対した国民主権喪失の問題が、今まさにフランス国民にくさびを打ち込もうとしているのだ。それは国民主権の危機といってもよい。

調停役と称しているバルニエが、極左、極右政党と政権党の間をかいくぐりながら、問題を丸く収めるだろうという期待とは裏腹に、民主主義の危機を招いているのである。

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