ある意味で、新型コロナウイルス感染症のパンデミックはシンの担当するアレルギーおよび喘息の患者たちにとって有益だった。なぜなら、このパンデミックはインドの空気品質にとって有益なものだったからだ。インドの大気は一時的に少し綺麗になった。粒子状物質が減ったのだ。
このことと、パンデミックの間じゅうずっとマスクを着けていたことがおそらく相まって、シンの患者たちは普段よりも喘息の発作を起こさなかった。彼女の担当する呼吸器アレルギーの患者たちも、2020年の4月から5月にかけての花粉の多い時期を普段より楽にやり過ごすことができた。
パンデミックが去りはじめ、公共の場での衛生措置が少しずつ解かれていく中、シンはアレルギー発作の発生率に対するマスク着用の効果を測定する科学的研究を計画しようと考えている。
カビやキノコに対するアレルギー
一方、患者たちにパンデミックが与えた負の影響は、カビやダニなどに対する室内のアレルギーを抱える人々の症状が悪化したことだ。どうやら、アレルギーに対しては勝利などというものはなさそうだ。たとえ外の空気が一時的に澄んだ時でさえも。
実は、シンが最も多く診るアレルギーの1つは真菌〔カビやキノコ〕に対するアレルギーだ。彼女の担当患者のうち、コントロール不良〔症状の悪化や発作の頻発など、抑制がうまく効いていない状態〕の喘息を抱える患者のおよそ20%が、やがてアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)という重篤な肺疾患を発症する。
ABPAは珍しい疾患であるものの、コントロール不良の喘息患者はよりこの疾患にかかりやすく、アスペルギルス属(世界全体でこれまでに837種が発見されている)の真菌のうち複数種に感作されるようになる。
「ABPAはとても嫌な疾患です」とシンは言う。「喘息をうんと悪化させてしまうからです。肺を破壊してしまいます。単なる喘息ではそんなことにはなりません」。
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