今よみがえる伝説の経済学者「宇沢弘文」の思想 21世紀の経済学者の課題「社会的共通資本」とは

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最初のプログラムに登壇した学習院大学の宮川努教授は東大宇沢ゼミ出身で、本邦初となる「社会的共通資本の経済学」講座を今年9月、同大学経済学部に開設したばかりだ(一足先に東京大学、京都大学が「社会的共通資本」を冠する講座を設けているが、両大学ともに「寄付講座」)。

清滝信宏
シンポジウムには「ノーベル経済学賞にもっとも近い日本人」と言われる清滝信宏プリンストン大学教授も登壇。左は宮川努教授(学習院大学提供)

宮川は、社会的共通資本を計量し、一国の経済パフォーマンスに与える影響を調べる研究を進めている。宮川によれば、宇沢の社会的共通資本理論は、「資本アプローチ」と呼ばれる理論の先駆けとみなすことができる。

国際機関が「包括的な富」をデータ化

資本アプローチの代表が、ケンブリッジ大学のパーサ・ダスグプタ名誉教授がケネス・アローらとの共同研究で提示した「包括的な富(inclusive wealth)」の概念を核とする経済理論だ。現在では、国連などの国際機関が世界各国の「包括的な富」をデータ化して分析するまでになっている(国連環境計画<UNEP>が「包括的な富の報告書」を2012年から数年おきに発表)。 

資本アプローチの目的は、GDP(国内総生産)に代表されるフローの指標で診断するのではなく、生産基盤のもっとも基底にある重要な富のストックの状態を調べることで社会の持続可能性や安定性を評価することにある。とくに、自然を自然資本とみなして分析の中心に据えたことが重要だ。

たとえば、GDPが成長しても、自然資本が棄損され減少しているケースは珍しくない。資本アプローチによって、市場経済あるいは資本主義をGDP統計とは異なる基準で評価できるわけだ(もちろん、自然資本などの計量には課題も多い)。

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