鉄道の防犯カメラ、乗客撮影は合法なのか 「当たり前」になってはいるが…

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そして、もうひとつ重要なのは画像の利用方法や保管方法である。正当な目的のもとに相当な手段で撮影したものであっても、集積をした画像が目的外に利用されるようなことがあれば、防犯カメラの性格(個人の肖像権との関係で限定的に許される)を逸脱するからである。

従って、撮影目的に照らして、捜査機関や運輸安全委員会等から画像提供の依頼に応じて、その画像が捜査や調査に資するようなものであれば、画像提供を行うこと自体問題はないが、捜査機関等からの提供依頼であっても、明らかにまったく無関係な事案についての提供依頼に応じることには問題が生じうる。

また、センセーショナルな事件が発生した時に、依頼を受けてマスコミに直接提供することも問題を生じうる。マスコミでの放映のために、防犯カメラが設置されているわけではないからである。

そして、すべての目的を達した場合には、画像は速やかに廃棄されることが望ましい。他人の行動を撮影した画像を、必要以上にいつまでも保管している理由はなく、流出の危険もあるからである。その意味で、一定期間ごとに上書きされて、画像が消去されていくという方法は一つの有効な手法であろう。

防犯カメラの危険性にも注意

手荷物検査よりもはるかに物理的ハードルが低く、かつ効果的な防犯カメラにおいても、考え始めると気をつけなければならないことは多い。現実には鉄道車両や駅構内に防犯カメラの設置が拡大しているし、世間一般的にも防犯カメラが許容される傾向にあると言えるが、単純に防犯カメラを付ければいいではないか、というわけにはいかないことは認識しておく必要がある。

防犯カメラを設置する側も、防犯カメラが有する特性だけでなく、その危険性や問題点を十分に認識して設置、運用をするのでなければ、会社の信用にもかかわる問題を起こしかねないからである。個人の画像や情報は以前に比べて取得しやすくなったものの、個人の肖像権やプライバシー権という重要な利益にかかわるものである、ということは今も昔も変わらない。個人の画像や情報を扱う側は、原理原則を理解し不用意な事態を生じさせないようにすることがなによりも重要である。

また、危険物持ち込みを完全に防ぐことは残念ながら難しいものであるが、危険発生防止には利用者の意識も重要である。地下鉄サリン事件では、サリンが入ったビニール袋が新聞で巻かれていたということもあって、事件後、車内の網棚などに新聞や雑誌を置かないように言われていた。しかし事件から20年、地下鉄サリン事件を知っているはずと思われる年齢層の人が、今や平気で網棚に新聞や雑誌を置いていく。危険に対する意識の風化と無関心が、より危険を大きくするということを忘れてはならないであろう。

小島 好己 翠光法律事務所弁護士

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こじま よしき / Yoshiki Kojima

1971年生まれ。1994年早稲田大学法学部卒業。2000年東京弁護士会登録。幼少のころから現在まで鉄道と広島カープに熱狂する毎日を送る。現在、弁護士の本業の傍ら、一般社団法人交通環境整備ネットワーク監事のほか、弁護士、検事、裁判官等で構成する法曹レールファンクラブの企画担当車掌を務める。

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