防犯カメラの可否の議論の際には、「悪いことをしていないのなら撮られたって何も問題はない」と言われることがある。しかし、思考停止した無批判はいずれ自分の身を危うくすることもありうるのだから、防犯カメラの可否については肖像権との関係で「人は自分の容貌を撮影されない自由を有する」ということを出発点にして考える必要がある。
防犯カメラで客を撮影することが許されるかどうかという問題については、コンビニエンスストアでの防犯カメラによる撮影の可否、そのデータを警察に提出することの可否が裁判で争われたことがあった。この時には撮影された客が、防犯カメラによる自身の容貌の撮影・録画と警察への画像提出が肖像権侵害にあたると主張をしている。
この裁判の判決(名古屋地裁平成16年7月16日判決)では、店による撮影・録画行為そのものについて、「買物客が商品選択、店内における行動態様などについて他人に知られることを望まないことも認められるべきで、商店内において承諾なく撮影されることは肖像権の侵害にあたる」という前提をまず示した。
その一方、店側の事情として、「商店主は客や従業員などの生命身体の安全や財産を守るために店内で一定の措置をとることが許される」と認め、店が防犯カメラによって店内を撮影し、データを一定期間保管することが許されるかどうかは、目的の相当性、必要性、方法の相当性などを考慮して、客の権利を侵害するかどうかを決めるべきと判断した。
鉄道の場合はどうか
結果として判決では、店の撮影目的は正当であるとし、防犯カメラ作動中と掲示して撮影の事実を客に周知していること、特定の客を追跡して撮影するものではないこと、保管方法につき、撮影データは1週間後に上書きされて定期的に消去されていることなどを挙げて、撮影方法も相当であるとした。警察への画像提出についても、無制限に許されるものではないとしつつ、この事件においては防犯カメラの設置・撮影目的に照らして違法とは言えないと判断した。
これを鉄道の現場に当てはめるとどうであろうか。
不特定多数の人が行き交う公共交通機関の現場において、発生しうる犯罪や事故に対処するために防犯カメラを設置するという目的自体は問題ないといえるであろう。防犯カメラ一般について嫌悪する考えもあるが、防犯カメラがあることで犯罪抑止の一助になりうるし、事件や事故の際の解決手段として有効であるといえるから、鉄道現場での防犯カメラの目的自体は正当といえる。
次に、撮影方法の点では、防犯カメラの設置・作動を告知したうえで、多数の乗客が一堂に会する客室内、駅構内を一般的に撮影することは、防犯カメラ設置目的との関係で相当であり許されるであろう。客室内や駅構内はトイレのように高度な私的空間ではなく、そこでの容貌や姿態を撮影されること自体には問題は少ない(もっとも列車の個室となると慎重な対応が必要であろう)。
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