日本の「金融所得課税」議論で圧倒的に欠けた視点 総裁選の争点だが、政争の具になっていないか
国は格差是正のために社会保障を通じた再分配を行っている。しかし、現在の社会保障給付での再配分は、受給者が「高齢者」であり、財源である保険料は「現役世代」が負担している。構造的に日本では現役世代から高齢者への再配分となっている。このため、「高所得者」から「低所得者」への再配分を行うには、金融所得課税が適しているというのが推進派の考えだ。
これに対して、反対派は、そもそも富裕層の定義自体が曖昧なうえ、自民党として新NISA(少額投資非課税制度)の拡充などを進めてきたこととも逆行すると主張している。
一部の富裕層ではなく、多くの中間層が金融所得による所得増の恩恵を得られるよう取り組みを進めてきた流れで、金融所得課税を強化するというメッセージは誤解を持たれかねないほか、物価高に苦労する中間層に対する増税となりかねないとの意見が上がっている。
海外の金融所得税はどうなっている?
こうした議論の中で、参考になるのが海外の事例だ。財務省によれば、アメリカは7.1~34.8%、イギリスは10%または20%と、所得ごとに金融所得に対する適⽤税率が決定されている。ドイツは26.4%で一律。日本と同じ運用になっている。また、シンガポールの場合、株式、金融商品の売却益が課税対象にはならない。
金融所得課税は現時点で「再分配」という視点のみで議論されているが、税を優遇することによる「経済成長」の側面と両輪で議論されることが望ましい。日本が金融立国を目指すのであれば、アメリカ型なのか、シンガポール型なのか、日本独自の型で進むのか、こうしたグランドデザインの議論になれば総裁選の争点に値する。
では、日本はアメリカを参考にするべきなのだろうか。この議論をする上で必要なのは、日本が諸外国と同じように富裕層における「富の集中」が進んでいるかだろう。日本の富裕層の人口や保有資産から見てみたい。
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