エネルギー基本計画は「再エネ第一」に組み替えを 蓄電池と国産水素で、変動性再エネの弱点克服

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また上図のとおり、短期と長期のエネルギー貯蔵のニーズを蓄電池と水素で分担することで、排出ゼロ化の費用を大幅に引き下げることができる。蓄電池は年間を通じて毎日充放電を繰り返す一方、水素は安価な余剰電力が多い春などの時期に大量のエネルギーを貯め、残余需要が多い冬などの時期に貯めたエネルギーで発電する。このため、システムコストを抑えられる。

余剰再エネによる国産の「グリーン水素」の戦略的な活用は、ガス火力をゼロにする電力システムの脱炭素化の最終段階(2040年代)のコストを引き下げ、電力自給率の向上に資する。さらに、水素や水素由来のアンモニアなどの燃料は、石油に替わるエネルギーの戦略的備蓄、船舶や航空機など長距離輸送の燃料、化学産業などの原料として活用することが期待され、電力部門を超えてエネルギーシステム全体の安価な脱炭素化を可能にする。

電力の脱炭素化を通じて日本経済の成長へ

以上により、蓄電池や長期蓄エネ(LDES)を活用し、国産再エネを大量導入することで、電力の安定供給と脱炭素化とを両立させうることを示した。しかもこの経路は、脱炭素化を最小費用で実現する道であり、電力自給率は、現在よりもはるかに高くなる(現在の18%⇒88%)。経済合理的かつ経済安全保障上、優れた選択だといえよう。またこの結論は、統合費用 を考慮したとしても、再エネが最小コストの電源であることを示している。

総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会の事務局資料(第59回、2024年7月23日、資料1、スライド5枚目)に示されているように、原油、ガスなど鉱物性燃料の2023年の輸入金額は26兆円にも上り、貿易赤字の最大要因である。これは自動車、半導体製造装置などで稼いだ金額(約29兆円)をほぼ打ち消すほどの規模だ。

こうした日本のエネルギーシステムの海外依存体質は持続可能ではなく、抜本的な転換が必要である。本稿冒頭で示した、エネルギー基本計画をめぐる議論の場で示された再エネへの疑問への回答として、本分析結果の結論を以下のようにまとめたい。

①再エネが第1の脱炭素電源であることは疑いなく、②&⑤電力需要の増大が見込まれるとしても、再エネはその量的拡大によって十分需要に応えうる。ただし、変動性を制御するために蓄電池と水素への投資を進め、それらが短・長期の十分な蓄電機能を果たすことが条件となる。

③自然条件の課題は、洋上風力への展開(とくに浮体式)、そして住宅・建築物や農地への太陽光発電のさらなる展開で克服可能である。

④再エネ機器の高い海外依存度によるデメリットはたしかにあるが、化石燃料の大量輸入がもたらす巨額の貿易赤字を、再エネ大量導入で解消できることのメリットのほうがはるかに巨大である。

本分析では 、再エネ電力とグリーン水素製造は国産化を前提としている。政府や産業界のシナリオによれば、水素は現在、海外から輸入する前提となっており、脱炭素化は日本の貿易赤字をいっそう増大させる要因になりかねない。本分析によれば、再エネ電力とグリーン水素製造の国産化により国内産業を振興し、貿易赤字の最大要因を解消することになる。これこそ、日本経済の成長を加速させる道ではないだろうか。

[引用文献]
P. J. Heptonstall and R. J. K. Gross, “A systematic review of the costs and impacts of integrating variable renewables into power grids.” Nature Energy. 6, 72-83, 2021. https://doi.org/10.1038/s41560-020-00695-4

K. Shiraishi, et al., "The 2035 Japan Report: Plummeting Costs of Solar, Wind, and Batteries can Accelerate Japan's Clean and Independent Electricity Future." Lawrence Berkeley National Lab. (LBNL), Berkeley, CA, LBNL-2001526, 2023. https://emp.lbl.gov/publications/2035-japan-report-plummeting-costs

K. Shiraishi, et al., "The role of hydrogen as long-duration energy storage and as an international energy carrier for electricity sector decarbonization." Environmental Research Letters. 19 084011, 2024. https://doi.org/10.1088/1748-9326/ad5856

白石 賢司 米国ローレンス・バークレー国立研究所 研究員

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しらいし けんじ / Kenji Shiraishi

東京大学大学院修了後、環境省に入省し、国内外の地球温暖化対策等に従事。同省課長補佐、公益財団法人地球環境センター事業部長、カリフォルニア大学バークレー校Ph.D.取得を経て、現在は国立ローレンス・バークレー研究所にて長期電力計画と再生可能エネルギー統合の研究を行っている。

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諸富 徹 京都大学大学院経済学研究科教授

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もろとみ とおる / Toru Morotomi

京都大学大学院経済学研究科教授。1968年生まれ。1998年京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。1998年横浜国立大学経済学部助教授、2002年京都大学大学院経済学研究科助教授、2006年同公共政策大学院助教授、2008年同大学院経済学研究科准教授を経て、2010年3月から現職。主著に『環境税の理論と実際』『資本主義の新しい形』『グローバル・タックス-国境を超える課税権力』など。

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