この日本生命での仕事において、長期に株式を保有することの長所と短所を知った。企業業績と株価との関係も理解できたと思う。株式の長期保有は望ましいものの、企業を選ぶ必要があることも学んだ。
結局のところ、株価は経営者の才覚に大きく左右される。会社での29年間の経験において、株式市場は短期的には何回も大きく下落した。その中、優れた経営者がいる企業は、その経営者の指揮の下、株価下落をいち早くかつ悠然と乗り切った。
「株式は危険」広がった風潮を憂う
会社を辞めて大学に転じ、証券市場や証券投資の分析に携わった。純粋の経済学の分野から評価すると、とくに日本においては「証券はあやしげな世界」だった。
最近になり、「資産運用立国」などのキャッチフレーズもあって、証券の世界にもようやく光が当たってきたようだが。
小学生から中学生にかけてのころ、「銀行よさようなら、証券よこんにちは」と言われたのを覚えている。このキャッチフレーズはその後、何回も言い換えを繰り返し、今の「資産運用立国」に至っている。
しかしその中身はというと、現時点においても、「株式で資産を築く」最初の一歩を踏み出した程度にすぎない。むしろ筆者が株式と付き合ってきた60年の間に、小学生のころの知人宅のような「資産家は株式を保有する」という常識が崩れ去った。
もっと言えば、株式は危険だという、エセに近い情報が広まってしまった。どうしてなのか。
それは証券業界の行儀が良くなかったからであり、日本では誰も真面目に、分析に基づいて株式のことを考えようとしなかったからでもある。
「株式」というと、「でも難しそうだ」とか、「株式で財産を失ったと父母や祖父母から聞いたが」との声が周囲にあるだろう。
前者の声については、「株式とは何かと考え始めたらきりがないし、本当のことを知っている者はプロでも数少ない」と簡単に答えておきたい。
後者の株式の危険性については、「それは証券会社や関係業者の言いなりになったからにすぎない」とまずは答えておきたい。父母や祖父母の声はともかくとして、過去も現在も未来も、株式で一攫千金を目指せば、その瞬間、財産をなくす危険に直面する。
だが、株式とは本質的に怖いものではない。
筆者の60年間にわたる株式市場との付き合いから得たさまざまな現実と事実を単純化して書くのなら、次のとおりである。
まず、「株式を買うことは子どもでもできる」単純なことである。もちろん契約に関する年齢制限があるため、原則として子ども(18歳未満)が証券会社に株式口座を開けないだろうが、それは契約に関して正しい判断ができないとの理由に基づくだけである。
次に、「株式で損をすることは当然ありうるが、欲さえかかなければ、大ケガとは無縁、何も怖くない」と筆者は信じて疑わない。ここでいう「欲」とは何なのか。
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