コロナ禍は、国家間の友好的な絆と交流の可能性を正面から否定し、国民の安全という至上命令のため、外国人を歓待する精神は傷つけられた、と著者はいう。「偏頗(へんぱ)な愛国心とナショナリズム」が高まる中でウクライナ戦争が起こり、東アジアも不安定な状況だ。本書はこうした現実に哲学的回答を試みたものだ、と評者には思える。
著者は、カント『純粋理性批判』やハイデガー『存在と時間』など重要な訳業にも携わってきた哲学者・翻訳家である。平易な日本語訳は、門外漢でも読みうる。
本書は、そうした訳業の果てに著者自身が得た見解を開陳したもので、それだけでも読み甲斐(がい)がある。ほとんど西洋哲学史入門のような体裁で、次々に著名な哲学者の説を紹介し、平易かつ丁寧に、一筋の行論にまとめ上げている。
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