
[Book Review 今週のラインナップ]
・『MORAL(モラル) 善悪と道徳の人類史』
・『新編 書論の文化史』
・『〈自由市場〉の世界史──キケロからフリードマンまで』
評者・早稲田大学教授 柿沼陽平
最近のSNSでは日々、誰かが誰かの不道徳を非難している。従来ならその場で怒るか泣き寝入りをし、しかし翌朝には当事者さえ忘れるような些事(さじ)さえ、人々は糾弾して止(や)まない。しかもそれを見た者も後方支援。言説はネット空間に残り続け、やがて侃々諤々(かんかんがくがく)たる議論を招く。これを「正義の暴走」と呼び、眉をひそめる向きもあろう。問題は、そうしたところから生じる社会の分断をいかに解きほぐすかである。
ドイツ道徳哲学の気鋭である著者は、漫然と「善悪と道徳の人類史」を概説するのではなく、現代社会の課題に答えるために歴史をさかのぼる。これは系譜学と呼ばれる哲学的手法だ。評者のような歴史家から見れば、古典的な歴史学の手法の1つでもある。
排他的な言論空間を出よ 分断解決へ道徳哲学者の提言
本書の流れをかいつまんで説明すると、まず、人は協調するのが難しく、一度成立した協調関係を維持するのはさらに難しい。だが太古の人類は自集団に道徳心を向け、協調した。進化論によれば、人間の遺伝子は利己的だが人間自体は利他的に振る舞える。ここに人類飛躍のカギがある。
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