明快なCSRビジョンが社員のモチベーションを高める《組織・人を強くするCSR 第7回・最終回》
マテリアリティが弱いCSRはビジョンがない経営と同じ
日本企業のCSR報告書は、顧客相手にはこの活動を行い、取引先相手にこの活動、社員にはこの活動、といったようにステークホルダー別にCSR施策を並べホチキスで留めるとCSR報告書になる、といった作り方をしているところが多い。
これに対して、グローバルで評価される企業は、ネスレのようにマテリアリティを定義づけ、自社はどの社会課題の解決を目指すのか、ということが明確に書いてある。
マテリアリティを定義するということは、自社の活動に優先順位をつけ、社員に「なぜわが社はこのテーマに取り組むのか」というメッセージを送る役割がある。
つまり、マテリアリティが弱いということは、自社のCSRが何をビジョンにした活動なのか明確ではなく、数多くの施策は行っているが優先順位がついていないということになる。これでは、社員が自社のCSRを納得して理解することはできない。
社員のスキルや経験を活かすCSRビジョンを作る
これまでの日本企業のCSRのアキレス腱は、マテリアリティ発想が弱いことであり、それが結局は自社のCSR活動のビジョンや目標をぼかしてしまっている。
連載の第2回で「攻めのCSR」の大切さについて解説した。攻めのCSRとは、本業、つまり自社のテクノロジーやスキルを社会課題解決に生かすことであり、そのためにマテリアリティの考え方を取り入れ、取り組むテーマを絞り込むことが成功要因である。
本業を通して社会活動を行うということは、そこに参加する社員が仕事を通じて身に付けたスキルや経験を社会のために使うチャンスを得られる。自分の経験やスキルを使い、見知らぬ人に「ありがとう」と言われて感動しない人間はいない。