井上礼之・ダイキン会長兼CEO--「あかんたれ」が空調世界一、人好き・帰属感・衆議独裁《下》
まさしく八方ふさがり。「明るく」するには、「夢中になる仕事」を立ち上げるしかない。夢中になる仕事とは何か。米国に輸出できないなら、そこに工場を造ろう。賛成したのは、社長の山田ただ一人だった。
真っすぐ敵の胸元に飛び込んだ。安売りはしない、用途を開発して新市場を開く。デュポンも「それなら、ウエルカム」となった。
「用地を探す、工場を建てるということで100人近くが米国に行った。ABCも知らない、海外は初めてという職場長クラスが行ったわけ。明るくなりましたよ」
「一流の戦略より一流の実行力」が井上のモットーだ。どんな立派な戦略でも、作り上げたときには時代が追い越している。「二流の戦略でも『こうや!』と決めて実行し、そのうえで戦略を変えていく」。それにはトップが現場にいることである。
社長就任直後、シェア6%のルームエアコンが競争力を失い、赤字に転落したことがあった。機関投資家は資本の論理を盾に、撤退を要求する。経営陣の中でも、「シェア30%の業務用エアコンに集中したほうがいい」という声が高まった。
だが、販売網も生産体制もある。何より、長年事業に携わってきた社員が大勢いる。井上はルームエアコンの滋賀製作所へ乗り込んだ。
資本の論理は無視できない。が、四半期ごとに結果を出せ、というようなアングロサクソン流のむちゃは言わない。「開発1年。事業(再生)2年」。“人間的な”デッドラインを宣告した。「人というのは、追い込まれると、とんでもない力を発揮するんですよ」。出てきたのが、無給水加湿のルームエアコン、『うるるとさらら』だ。この大ヒットでパナソニックを抜き、国内首位を奪取した。
03年夏には、欧州でエアコンが供給不足に陥った。ぜいたく品とされていたルームエアコンが、猛暑を機に一気に売れ出したのだ。一過性のニーズか構造変化が起こっているのか。会議を重ねたが、答えは出ない。