井上礼之・ダイキン会長兼CEO--「あかんたれ」が空調世界一、人好き・帰属感・衆議独裁《下》

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招待客の誰もが「もてなしの心」を絶賛するという、ダイキンオーキッド。接遇は社員が担当する。500人以上の財界人が集まる前夜祭の、最終リハーサルである。

舞台の真ん前に着席し、左胸のポケットからたばこを取り出した井上に、副社長の川村群太郎がすかさず、昨夜10時まで修正を重ねた、第11稿の進行台本を差し出した。

「出だしのブザー音が長すぎる。お客さんが驚くやろ」「(ゲスト歌手の紹介は)『紅白出場』ではなく『紅白歌合戦出場』に」「照明をもう少しだけ落とせへんのか」。誰より繊細なこの人がつぶやくと、数人がさっと駆け寄り中腰でメモを取る。こうして第12稿が作られる。

しかし、井上は専制独裁ではない。役員会は侃々諤々(かんかんがくがく)、時に議論は夜を徹し朝に及ぶ。だが最後は、井上の鶴の一声だ。「衆議独裁。トップの私が言うてるんやから、白や。誰が何と言おうと、白で行くんや」。

復帰してからの実績が一段と井上の求心力を強めた。が、絶対化が進めば進むほど、難しくなるのが、井上の後継者問題である。

6月、社長が交代した。井上が会長兼CEOに就任してから、実に3人目の社長だ。かつての山田と井上の関係になぞらえれば、人事畑の新社長・十河は「人が基軸」のダイキンイズムの継承者には適任だろう。

しかし、山田が井上に託したもう一つのミッション「創造的破壊」はどうだろう。「答えのないところに答えを出していくのがトップの仕事。経験積んだらできるかもわからんし、できへんかもわからん」。

今回、社長交代と同時に、新たに副社長3人、専務1人を昇格させた。「5年先には海外比率が7割を超す。だから、この次が重要なんですよ。(候補者は)副社長、専務を含めて数人。決断の仕方、帝王学を教えながら、競争原理を働かせる」。

次の人事は最短で3年後。しかし、かつて井上が山田を“否定”したように、井上を超えうる本格的なリーダーが3年後に出てくるのかどうか。経営者とは、後継者を育てて初めて完結し、評価が定まるものとすれば、井上は今、最大の修羅場にいるのかもしれない。=敬称略=

いのうえ・のりゆき
人が好きだから、人の気持ちがよくわかる。自分の方針についてこない人間は徹底して許さない。「トップの私が言うとる、ついてこい」。恐怖政治に見えるこのスタイルに井上の思いやりがある。「議論させ、最後にはこう決めた、問答無用や。意見があかんということと、そいつがあかんということは違いますよね」。

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(前野裕香 撮影:ヒラオカスタジオ =週刊東洋経済2011年10月29日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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