井上礼之・ダイキン会長兼CEO--「あかんたれ」が空調世界一、人好き・帰属感・衆議独裁《下》

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中国のルームエアコン市場は約3000万台と日本の3倍以上。現地企業の格安機が市場を席巻し、外資系の影は薄い。ダイキンが戦うにはコスト競争力の強化が必須だった。

一方、格力を中国一のメーカーに育て上げた朱江洪は「現場の人」であり、自社の技術力・品質に不満を抱いていた。朱は井上に、ダイキンの基幹技術・インバーターの技術供与を要請してきたのである。

日本で主流のインバーター(温度・風力を自動調整する機能)は中国ではまだ普及していない。朱は「格力がインバーター化に踏み切れば、ノンインバーター(一定速)からインバーターへ市場の流れが変わる」と説いたのだ。

中国市場でインバーターが主流になれば、ダイキンの商機も広がる。格力はインバーター技術と交換に、部品の共同調達やローコスト生産のノウハウを提供する、という。だが虎の子の技術を守りたい開発陣は猛反対。しかし、井上は断行した。反対する担当役員に「おまえ、辞めさすぞ」とまで言った。

ダイキンがやらなくても、いずれ他社がやる。決め手は「信頼」だ。「朱さんは信頼できる。(技術を)悪用しない。見返りは必ずくれる」。

金型・部品の合弁会社の出資比率は格力51%に対してダイキン49%。「うちはマイノリティでいい、言うたんです。私は変人なんです。そしたらものすごい信頼感を持ってくれた。メンツの国ですから。うちはそんなんどうでもいい。実を取りゃ」。

今夏、中国でのインバーター機の比率は50%を超えた。5000元(約7万円)の上級機しか作れなかったダイキンは売れ筋の3000元(約4万円)の製品を開発。来春、自社で最大となる年間生産150万台の現地工場を稼働させて勝負に出る。

今年3月2日午後3時過ぎ。沖縄ハーバービューホテル・彩海の間に、井上がゆらりと姿を現した。社員約50人が起立して迎えた。大広間は、静寂と緊張に包まれている。

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