決裂したTPP、次に大筋合意したら起きること

農業へのダメージ、消費者が受ける恩恵は?

コメ」にかかる関税は現在、1キログラム当たり341円。TPPでは現行の関税を維持するのが前提で、その代償として、日本は無関税で輸入する「TPP特別枠」の設定を受け入れる方針だ。その量をめぐり、調整が続いている。

過去に日本は、ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉における合意を受け、1995年から毎年一定量のコメを(2000年から77万トン)、ミニマム・アクセス(MA)米として、義務的に輸入してきた。MA米の多くは国内農家に影響を及ぼさないよう、家畜の飼料や国際援助に回される。その結果、売買差損や在庫の保管料で、累計2700億円の財政負担が発生。今回の特別枠は、このMA米に加え、さらに輸入を増やすものだ。

さまざまな保護政策にもかかわらず、全農産物の産出額に占めるコメのシェアは20%程度と、低下が著しい(図上)。特別枠の量がどの程度で決着するにせよ、競争力の衰退を止められず、さらなる財政負担の拡大を招く関税維持には、疑問が残る。

他方、米国産の「牛肉」は現行の38.5%の関税が、約15年間で9%に引き下げられる公算だ。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁氏は「国産牛肉は競争力があり、ダメージはない」と見る。

競争力をつけた和牛

それを裏付けるのは、これまでの実績である。輸入牛肉の関税は1991年時の70%から2000年にかけて、38.5%まで段階的に引き下げられた。この間、高級な和牛の生産量は、実は増加した(図下)。

というのも畜産業者は、小売価格で輸入牛肉と約3倍の差がある、和牛生産に注力。低価格の国産牛肉(乳牛種のオスなど)の生産は減ったが、高価格の和牛の生産は、1991年の14.3万トンから、2014年に16.1万トンまで伸びた。関税の引き下げが競争力を高めた好例といえるだろう。

輸入牛肉の取扱量の多い国内の外食業界でも、TPP妥結を求める声が相次ぐ。

「TPPについて一つだけ言えるのは、悪いニュースではないということ」(日本マクドナルドHDのサラ・L・カサノバ社長)。「食材コスト抑制につながることは歓迎したい」(吉野家HDの河村泰貴社長)。輸入牛肉の場合、現地相場や為替も含めた複合要因で価格が決まる。関税引き下げがメニュー価格引き下げに直結するわけではないものの、消費者が恩恵を受ける可能性は高まりそうだ。

また「豚肉」に関しては、現状、価格帯によってかけられる関税が異なるという、複雑な制度が採用されている。1キログラム当たり524円を超える高い豚肉の関税は4.3%だが、安い豚肉には最大で482円の関税がかかる(価格によって関税額も変動)。

これは日本に安い豚肉が入ってこないための制度。しかし今回のTPP交渉では、安い豚肉にかかる関税について、約10年間で482円から50円に引き下げる方向でほぼ合意した。実現すれば、安い輸入豚肉の主要顧客であるハム・ソーセージメーカーは、原料価格を抑制できる。

コメなど一部例外を除き、TPPの交渉妥結で、日本の消費者が享受できる恩恵は大きい。従来どおりの産業界保護で終わるのでなく、各国には“生みの苦しみ”を乗り越える努力が求められよう。

「週刊東洋経済」2015年8月22日号<17日発売>「核心リポート01」を転載)

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