米国の社長と平社員「給与格差300倍」の実態 上場企業の経営陣と平社員の給与開示へ
金融規制改革法の起草者は、株主がこの比率をもとに、類似する企業を比較できると考えた。たとえば、ペプシコの経営陣と一般従業員の平均的な給与の差が、コカ・コーラに比べてかなり大きい場合、株主がペプシコに説明を迫るかもしれない。従業員の給与が高いほど生産性が上がると考える株主は、給与の差が大きい企業の経営陣を批判するかもしれない。
反対派に譲歩した内容も
単純な計算を義務づけるだけにも思えるが、導入コストや規制の複雑さを懸念する企業の言い分を聞くために、SECは膨大な時間を費やしてきた。
長引く議論は、規制を支持する人々をいらだたせた。エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党)は6月に、メアリー・ジョー・ホワイトSEC委員長に書簡を送り、いつまで時間をかけるのかと厳しく問いただした。
ホワイト委員長は5日に発表した声明で、新しい規制は「法律の条文と目的に照らして、柔軟かつ忠実」だと述べた。ホワイトは、委員会で2人の民主党委員とともに賛成票を投じている。
一部のアナリストは、開示義務に伴うコスト増大に関する企業の主張も、間違ってはいないとみる。主な企業は高度な報酬管理システムを導入しており、給与の中央値を計算するのは比較的簡単そうに思えるかもしれないが、新しい規制では世界中の従業員の給与を計算しなおす必要が出てくるという。さらに、計算した中央値が財務諸表に明記されることによって、企業はそれを確実に遂行しなければならなくなる。
「(新しい規制のための)計算は、決して取るに足りない作業ではない」と、コロンビア大学ロースクールのロバート・J・ジャクソン教授は言う。
一方で、労働組合問題の専門家からは、SECは最終的に譲歩しすぎたという声もあがっている。実際、内容が緩和された部分もいくつかある。
給与の平均値は、すべての従業員を実際に調査しなくても、統計的なサンプリングで計算することが認められている。さらに、アメリカ国外の従業員は最大5%まで、計算から除外できる。
株主は歓迎しない?
給与比率の開示は、2018年前半に公表される財務書類からになる見込みだ。それまでに、反対派は法廷で規制を覆そうとするかもしれない。SECで反対票を投じた共和党委員の1人、ダニエル・ギャラガーは5日の委員会で、「ドッド・フランク法の規定のうち、最も役に立たないのではないか」と述べた。
大企業の業界団体で、新しい規制に反対してロビー活動を繰り広げている役員報酬センターは、株主はこれまで基本的に、給与比率の開示を企業に義務づけるような提案に反対してきたと述べている。
「労働組合や一部の年金基金、社会活動家を中心とするごく一部の株主が、給与比率の開示を、自分たちに都合のいい狭義の理念を推進するために利用するだろう」
(執筆:PETER EAVIS、翻訳:矢羽野薫)
© 2015 New York Times News Service
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