TGV施設破壊で混乱、パリ五輪の「鉄道輸送」事情 地下鉄は運賃2倍に、市民はどうしている?
フランス政府はこれを「大規模な破壊行為」と断罪。SNCFのジャン=ピエール・ファランドゥー最高経営責任者(CEO)は、「実行犯は、信号やポイントの切り替えを制御する信号をやり取りする光ファイバーケーブルを標的にした」と説明し、事件の深刻さを強調した。
イギリス在住の筆者はこの事件発生直後、パリとを結ぶ国際高速列車「ユーロスター」が発着するロンドン・セントパンクラス駅に出向き、運行への影響を確認した。
ユーロスターはケーブル切断事件のあった高速線を迂回する在来線経由のルートで運行をどうにか再開したが、通常30分ごとに出るパリ行き列車は「1本おきに運休」という状況で、キャンセルされた便を予約していた客は代替交通手段の確保に追われていた。日本の新幹線のように自由席や立席で乗車させる仕組みがなく、しかも夏のバカンスシーズンのため、五輪観戦とは関係ない客の需要も多く、すでに列車の座席は埋まっていた。
フランスのアタル首相は、こうした利用者需要がピークに達する日を狙って、意図的な破壊行為が起きたことに対し、犯行について「準備され、調整された破壊工作」と強く非難した。
専門知識ある者の犯行?
今回の事件は、列車そのものを脱線させたり、線路を破壊したりという行為とは異なり、目立たないものの鉄道の生命線である通信ケーブルを破壊するという巧妙なものだ。いわゆるテロリストによる殺人行為とは異なり、直接の人的被害がなかった。
フランスではかねて労働者の実力行使、ストライキが日常的に起きており、鉄道事業をめぐっては、労使闘争が長年にわたってやまないという問題を抱えている。農民が自分たちの主張をより強く伝えるため、トラクターで高速道路をふさぐデモを行って社会的な注目を得るといった行動も起きている。今回の鉄道施設の破壊行為は、いわゆる鉄道を標的としたテロというよりは、こうしたデモなどの延長線上にありそうな感じも受ける。
ジェラルド・ダルマナン内相は、攻撃の方法が「極左が行う伝統的なもの」と述べ、政治的な主張が背後にある可能性を示唆した。事件発生から3日目の7月28日、フランス北西部の鉄道施設の近くで不審な行動をしていた「極左過激派」とみられる男が警察に拘束されたが、この男が直接事件に関与している証拠はまだ見つかっていない。
犯行声明は7月末時点で出ておらず、犯人像は不明なままである。高度な専門知識と技術を持つ者によって計画・実行されたものとみられ、鉄道関係者が関与している可能性もありそうだ。
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