人間の脳の半分は、自らの人生を進行中の物語に変換し、その記述から意味を作り出すという想像力を必要とする作業に関わっている。
文学者であり詩人のバーバラ・ハーディは述べる。「私たちは物語のなかで夢を見ます。物語という白昼夢のなかで、思い出し、予測し、願い、絶望し、信じ、疑い、計画し、修正し、批判し、構築し、陰口をたたき、学び、憎み、そして愛するのです」
もちろん物語には欠点もある。私たちは心理的に、世界のなかになんらかのパターンを見つけようとする気持ちが非常に強く、安易にパターンを作りあげてしまう傾向にある。
不規則に点滅する光を見せられると、たとえそこに意味はなくても、ひとつのメッセージとして説得力のある理由を考え出してしまう。
物語を語ることで得られる価値
スポーツチームや金融市場を子細に眺め、勢いがある、あるいは幸運に恵まれているなどという根拠のない思い込みから説得力のある物語を捻り出し、それに賭けては大金を失うはめになる。
しかし、個人の物語を語る行為から得られる価値や重要性は、そこに潜む罠から被る損失をはるかに上回る。
私たちは、例外的で予想もつかない、さもなければ常軌を逸するような人生の出来事があっても、それらを意味のある理解しやすいいくつかの章にまとめ、物語として語ることで、人生における流れのなかにうまく組み込んでいけるようになる。
こうした人生の出来事を統合していく一連の行為こそ、物語を語ることで得られる最大の贈り物なのだ。
物語は例外的な出来事を様式化し、語り得ないものをひとつの話に変換する。小説家ヒラリー・マンテルの言葉が示すように、物語こそ、私たちが「自分自身の著作権を掌握する」ことを可能にしてくれるのだ。
髙橋功一(たかはし こういち)
青山学院大学卒業。航空機メーカーで通訳・翻訳業務に従事し、その後専門学校に奉職。現在は主に出版翻訳に携わる。訳書に『自信がつく本』(共訳、ディスカヴァー・トゥエンティーワン)、『エディー・ジョーンズ 我が人生とラグビー』(ダイヤモンド社)、『世界の天才に「お金の増やし方」を聞いてきた』(文響社)など。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら