古生代のペルム紀に生息していたゴキブリは巨大で、われわれの祖先がその攻撃におののいていた、というのである。その恐怖を記憶した祖先のDNAが、今に継承されているというのだ。真偽のほどは分からないが、分子進化の観点からは一理ありそうだ。
ただ私が教育の側面から注目しているのは、親の関わり方である。確かにゴキブリは黒光りしており、触覚の動きが不気味で動きが素早く突然飛び上がるなど、われわれの予期せぬ動きをする点で受容できない側面はある。だが、その不気味な動きを目にした母親がその度に部屋で悲鳴をあげていたら、子どもにその反射的行動は感染し染み付いてしまう。
今の時代はそうでもないだろうが、気味の悪いものを見て悲鳴を上げることが女性の証しであるというような法則がこれまで存在していたのではないか。子どもは親の一挙手一頭足を実によく観察している。また子どもは、家庭内では一般的に母親が身近に存在し、母親の影響を受けやすい。さらに言うならば、ミニチュア化しやすいのではないか。
大学も「生物アレルギー」をあぶりだしたい?
ゴキブリを可愛がってくださいとまでは言わないが、突如現れても見て見ぬふりをすることくらいはできないか。つとめて平静を装うということはできないだろうか。なかなか難しいだろうが、もしこの行動を家庭内で実践できれば子どもは母親の行動を手本に、「そういうものなのだ」と受け取め育ち、ひいては「生物好き」になってくれるかもしれない。
ところで、色の点では、クワガタムシやカブトムシも黒光りしているが、われわれの社会は彼らを好み高額で取り引きしているし、重宝な生き物として位置づけている。
また、水生のゲンゴロウは形状が酷似しているが、「カワイイ」という女子受験生もいる。これは、ゲンゴロウ(源五郎)という名前が可愛いいのか、それとも泳ぐ姿がこっけいで可愛いのか。
分からない。一体何がどうなっているのか。この際、ゴキブリも名前を、「ゴキちゃま」とかに変更してしまえば、ことが解決するのか。
ちなみに、以前東京医科歯科大学医学部医学科の後期入学試験の英語小論文で、ウォルパートという発生生物学者が行なった「ゴキブリの脚切断実験」に関する考察問題が出題されたことがある。問題用紙にはイラストでゴキブリの脚がズラリと何本も描かれており、英文とその図を見比べながら問題に答えていくという内容だ。
この出題の背景にある大学側の意図の、正確なところはわからない。ただ、ここまで私が述べてきた事柄と何か関連があるのだとすれば、「生物アレルギー」を起こさずに冷静に対処できる生徒を見極めたいという意図があるのかもしれない。
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