「トランプ氏銃撃」日本で起きた時の最悪シナリオ 日米の「要人警護」の違いから事件を読み解く
銃撃の最中にカバンを開いて掲げていてはまず間に合わないし、警護対象者を覆える面積も少ない。何より、シークレットサービスの鉄則は「自分が盾になる」ということ。防弾チョッキを着た自分たちが盾になるほうが確実で早いのだ。だからこそ、警護対象者の近くに配置されている。
日本のSPもそれが鉄則には変わりない。しかし、安倍元首相の事件では、1m以内で警護し、1発目の銃声を聞いた瞬間にタックルしてでも安倍氏の姿勢を低くさせる(的を小さくする)必要があったが、できなかった。
カウンタースナイパーは銃撃犯に気づいていた?
前述したように、今回の事件は、銃撃後のシークレットサービスの動きは完璧だった。しかし、トランプ氏が銃撃され、死亡者も出てしまったのには、大きな失態が2点あったからだ。
1つ目は、「高所警戒」が杜撰であったこと。高所警戒とは、狙撃犯が潜む可能性がある建物を警戒することである。
今回、事件の現場となった会場のそばには建物が多かったわけではない。しかも、容疑者がいたと思われる建物は130mほどしか離れていなかった。この見落としは、通常では考えられないことだ。
日本の場合、地元警察が警備に当たるが、基本的に1つの建物に最低でも警察官を1名配置する。例外として、ビジネス街などビルの数が多い場所の場合は、複数の建物を警戒させることもある。ビルを3つ担当するとしたら、当日はその中でも一番高いビルに登って、そこから残り2つを警戒することになる。
高所警戒というものの、下から上を見上げるパターンもある。例えば10階建てビルの複数階が空きテナントの場合、そこがスナイパースポットになりうるので、人が潜んでいないかを警戒する。
もちろん事前に、ビルの所有者や管理会社、不動産会社に連絡し、警戒する建物に空きテナントがあるかを確認、警察官を入れることが可能かどうかを交渉する。
また、さらに高所からヘリコプターが巡回することもある。高所警戒がついているビルとついていないビルを把握しているため、把握していない人物がいたら本部に連絡がくる仕組みだ。事前に、この時間には屋上に上がらないでくださいね、とビルの管理者には連絡をしておく。
今回、こうした警戒が徹底されていなかったということだろう。一般の参加者から「銃を持った怪しい人物がビルに入っていった」と情報提供があったといい、なんともお粗末な結果となってしまった。
2つ目は、この参加者からの不審者情報が生かされなかったことだ。
もしこれが生かされていれば、警備本部からシークレットサービスのカウンタースナイパーに無線がいき、犯人が銃撃する前に無害化することができた。または、トランプ氏の直近にいるシークレットサービスが演説を止め、トランプ氏の安全を確保できたはずだ。
警備本部とシークレットサービスとの連携ができていなかったのか、それともスナイパーが狙撃を躊躇したのか。今後解明されるだろう。
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