東芝の「鉄道自動運転」技術、実用化へ一歩前進 長野電鉄と実証実験、基本動作の検証が完了

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自動運転で課題となるのは線路内への人や物の侵入に対する対策である。ゆりかもめのように全線高架にでもしない限りそれらを防ぐことはできない。既存の路線を自動運転に切り替えるなら、少なくとも運転士と同レベルの支障物検知システムを備える必要がある。

東芝の支障物検知システムは、ステレオカメラとライダーによる情報を線路地図データベースと照合して走行空間を認識し、人や物といった支障物の有無を検知する仕組み。支障物がなければそのまま走行し、問題があれば係員に音や光でブレーキ操作を促し、手動で停止する。

実証実験では夜間でもステレオカメラが200m先の人を検知することに成功したという。夜間に人間が通常視認できるとされる距離は110〜130mとされており、それよりも長い距離を検知できたことになる。しかも「運転士による視認よりも早く検知できた」と担当者は胸を張る。雨や霧といった従来は運転士が目視で運行停止を判断する状況ではライダーが前方の視界を判定して自動で運行停止する。

地方鉄道にとって「今後必要な技術」

同社では2015年から自動運転システムの開発に着手。2021年度から長野電鉄の協力を得て、須坂―信州中野間で実証実験を実施している。同区間は路線長13km。7つの駅があり、踏切数も54と多い。長野電鉄と組んだ理由について、「雪が降り、逆光もあるなど、いろいろな場面がある区間が実証実験に適している」と担当者が話す。一方で、長野電鉄は東芝からの申し出に対して「自動運転は今後必要になってくる技術であり、お手伝いしたい」(鉄道事業部技術課)。

もちろん実証実験が難なく進んだはずもなく、試行錯誤の連続。東芝の担当者は「技術開発の難易度はもちろんだが、どうやって試験するかにも苦労した」と振り返る。たとえば、線路内の人型支障物の検知試験。列車に実際に衝突させるわけにいかず、衝突直前にリモコンで支障物を倒すなどの苦労があったという。

今回の基本動作検証の完了を踏まえ、今後は前方監視技術の精度を高めて300m以上先の支障物検知を目指すとともに、さまざまな列車に適用できるようなシステムの改善にも取り組みたいという。また、現在はライダーが車両の前方外側に取り付けられているが、これも内部に収めるという。

人口減少社会を迎え、地方鉄道にとって運転士の確保が困難な時代になりつつある。しかも、資金力の乏しい地方鉄道が自動運転のために大規模な設備投資をするのは容易ではない。この自動運転システムが完成すれば地方鉄道にとって朗報に違いない。

このまま開発が順調に進むとは限らない。鉄道の歴史を振り返れば、基本動作検証が完了してもその後の耐久試験の結果が芳しくなく新幹線への採用を断念したフリーゲージトレインのような例もある。しかし、たゆまぬ努力が鉄道システムをより安全性に、より信頼性の高いものとしていることも鉄道の歴史から明らかである。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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