ギリシャの有望ベンチャーが死滅しつつある 経済危機により「国外脱出」が活発化

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ギリシャでの起業は、これまでも易しいものではなかった。世界銀行の「ビジネスをしやすい国ランキング」でも、ギリシャは189カ国中61番目とされている。お役所仕事の複雑さは悪名高く、法的システムの対応も遅いため、建築規制や土地争議などの解決に長い時間がかかる。

税法も頻繁に変わる。起業を支援する国際的な非営利団体エンデバー・グリースの経営責任者ハリス・マクリニオティス氏は、長年の間、特に若者を中心に労働力がギリシャ国外へ流れていると話す。失業率は25%を上回り、若者の間ではその数字が50%を超えるという。しかし、既存の仕事がないことで、若者たちは必要にかられて自ら起業し、仕事の機会を生み出しているとも言う。

過去数年間で、ギリシャのスタートアップ環境は目覚しい進化を見せ、現在スタートアップ企業の数は400社前後に上るとみられる。中でも成功し、その名を広く知られているのは、スマートフォンのアプリでタクシーを呼ぶことのできるTaxibeat、オンラインで仕事を探せるソフトウェアWorkable、アプリ開発者のためのモバイル・アナリティクス・プラットフォームBugSenseなど。このBugSenseは、2013年にサンフランシスコにあるSplunk社に買収された。

EUやギリシャ政府もスタートアップを支援

欧州連合やギリシャ政府も、ファースト・アテネ、オープンファンド、PJテク・カタリスト、オデッセイ・ベンチャー・パートナーズ、アティカ・ベンチャーズなど、地元のベンチャー投資会社を通してスタートアップの支援を行っている。

ところが、その成長もギリシャ経済の減速と共に落ち込みを見せている。

「この先縮小の一途をたどるのは明白です」ザ・キューブのメッシニス氏は言う。同氏は他にも、キャンパスバスというキャンペーンに資金提供を行っている。ボランティアをバスに乗せ、ギリシャ中の町や村を廻り、起業家精神、財政、マーケティングについて講演を行うキャンペーンである。「最近では、人々の移動が激しいです。彼らを縛り付けるものはほとんどありません。母親の言うことを聞くという以外はね」

一部のスタートアップ起業家は、希望的観測がしぼみ、スタートアップ環境の生命力が弱まりつつあると話す。「国が、彼らの当然受けるべきチャンスを与えてくれるのかどうか疑問です」55歳のニコス・アナグノストウ氏は言う。同氏は、不動産所有者が賃貸物件の管理をするアプリ、ディスカバールームの創立者である。

資本を呼び寄せ、それを維持することが主要な問題となっている。「投資家関連の議論は棚上げにされたままです」マクリニオティス氏は言う。「議論を続けたとしても、これまでとはだいぶ違う成長・利益率の予測に基づいた話し合いとなるでしょう。そうなれば当然、企業の評価にも悪影響が出てきます」。

スタートアップ企業へ及んだ影響は、そのビジネスモデルにより異なる。親が子どもの預け先を捜すことのできるオンラインサービス、ナンヌカ社は、ここ数週間の状況を受けて国外へフォーカスを移すことにした。同社8000人の顧客のうち約90%はギリシャ国内だが、現金不足のため今は誰も金を使いたがらない。

「1日でも、状況を嘆いてただ時間を無駄にしたくはありませんでした」プロジェクト・マネージャーのマリア・アルナオウタキ氏 (24歳) は語る。「そこで、やるべきことを急いで済ませ、ビジネス拡大を最優先事項に設定したのです」。

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