ウォール街に定着した「ブラック・スワン」戦略 「暴落時費用対効果」を常に得られるポジション
2020年初めの時点で、ユニバーサの戦略は突出した成功を収めていた。
大手会計事務所のアーンスト・アンド・ヤングが2008年の立ち上げから2019年12月までのユニバーサのブラック・スワン戦略を監査したところ、ヘッジファンドの成功(または失敗)を測る一般的な指標である投資資本の平均年間収益率が105%と驚きの高さだった。
つまりユニバーサは平均して年間105%の収益を出していたということで、これは世界トップクラスのヘッジファンドと同等か上回る業績だ。しかもこの数字には2020年初めの4000%超の利益は含まれていない。
この収益を実現したのは、ユニバーサの誰かが市場の向かう方向、上がるか下がるか横ばいになるかを予測した結果ではない。
ただし、スピッツナーゲルは市場の暴落の時期を予測する気はないものの、中央銀行の介入によって資金を注ぎ込まれたアメリカの株式市場(および債券市場)は長らく持続不可能なスーパーバブル状態にあり、いずれ火薬の詰まった樽のように爆発するだろうと信じて疑わない。
スピッツナーゲルの世界観の核には、アメリカ連邦準備制度はここ何十年も憑かれたようにバブルを膨らませ続けており、暴落を連発させる乾いた薪が積み上がっている、という確信がある。暴落がいつ起きるかがわかる、とはスピッツナーゲルもタレブも言わない。スピッツナーゲルが2020年の投資家への手紙に書いたように、「未来が見える水晶玉など存在しません!」。
暴落の予兆とは
しかし、市場の暴落を予測するのは不可能だと誰もが思っているわけではない。市場のノイズの中から崩壊の兆候を示す特定のシグナルを検知できる、と主張する一群の数学者が現れている。
その多くは、タレブの友人ヤニール・バーヤムのようなずばぬけた頭脳の持ち主が携わる複雑系理論という超難解な科学の一分野に没頭している。
フランス人物理学者ディディエ・ソネットなど複雑系理論の専門家は、自分の予測システムの信頼性を示す実験を考案し、いくつかは驚くべき成功を収めていた。
タレブは、市場の乱れの中には予測できるものがあるという考えに全面的に反対してはいない。そのような事象を彼はグレイ・スワンと呼び、2008年の世界金融危機はこのカテゴリーに入ると言う。
しかし、こうした災害級の事象が起きるタイミングを予測するのはとてつもなく難しく、ソネットら市場の魔術師が開発した予測ツールはリスク管理にはまったく無力であると主張してきた(この論争が第12章の中心テーマである)。
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