任天堂「あえての技術劣化」が業界に与えた好循環 ゲーム業界が「30兆円市場」に成長できた訳

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任天堂は、発表したときの「アハ体験」の大きさで人気を博してきた会社でもあります。びっくりするようなハードウェアが発表されて、そこに、いつも大好きだったマリオやゼルダが、それまでとはまったく違う形で現れる。ハードとソフトのWコンビが成功の確度を決めているのです。

3代目でカリスマ社長だった山内溥さんは、「我々は遊びを提供する玩具屋であって、キャラクタービジネスをしているのではない」ということを明確におっしゃっていました。任天堂の売り上げは、長らく「ゲーム事業」1本。ハードとソフトの違いはあっても、多面的な事業展開をするような会社ではなかった。

しかし、時勢に合わせて変化してゆき、2016年には、初めて「モバイル・IP(知的財産)関連収入等」という項目ができました。キャラクター商品の展開など商品化を広げることにも事業の軸足を広げていこうという姿勢に変えたのです。

これがのちにUSJ「スーパー・ニンテンドー・ワールド」や映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」につながっていきます。任天堂にとって大きな転換点だったのではないかと思います。

コンテンツ事業の海外展開に必要なもの

僕もコンテンツ作りはやっていますが、つくづく、マスにタップすることはこんなにも難しいものかと思います。

「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」も世界中で楽しまれていますが、辺境のアメリカでも知られているかというと、難しさがある。やはり長年アニメ映像やさまざまなメディアで浸透を続けてきた「ドラゴンボール」「ワンピース」「NARUTO」、そして「マリオ」「ポケモン」。この5作の浸透度は段違いです。

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アメリカ人からすれば、なぜ「スポンジボブ」が日本ではやらないんだと思うでしょうし(日本人からすると、そんなに目にする機会がないですよね?)、海外市場の末端にまで認知されるというのは、本当に本当に特別なことなのです。

「本当に面白い」というのは、最初に越えるべき基準点でしかなく、そこから先にクリアしなければならないことがたくさんあります。プロモーションが成功し、類似した競合の強い作品が出ていない、コロナ期のように時代的に後押しされる要素もつきものです。あらゆる要素が奇跡のようにまじりあって、初めて大ヒットが生まれます。

その意味で任天堂は、1980年代にアメリカで「ゲーム」という市場そのものをよみがえらせ、その功績によって現在も海外認知度でトップ5に入る「マリオ」のようなキャラクターを、マスの末端にまで届かせることに成功した世界的企業です。それがハリウッド版映画で証明されましたし、今後もゲームだけではなく、映像やテーマパークを含めたIP展開で、新しい「アハ体験」を拓き続けてほしいですね。

(構成:泉美木蘭)

中山 淳雄 エンタメ社会学者、Re entertainment代表取締役

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なかやま あつお / Atsuo Nakayama

エンタメ社会学者。事業家(エンタメ専業の経営コンサルRe entertainment創業https://www.reentertainment.online/やベンチャー企業役員(Plott、ファンダム)をしながら、研究者(早稲田博士・慶應・立命館大研究員)、政策アドバイザー(経産省コンテンツIPプロジェクト主査、内閣府知財戦略委員)などを兼任し、コンテンツの海外展開をライフワークとする。以前はリクルート・DeNA・デロイトを経て、バンダイナムコスタジオ・ブシロードで、カナダ・シンガポールでメディアミックスIPプロジェクトを推進&アニメ・ゲーム・スポーツの海外展開を担当。著書に『クリエイターワンダーランド』『エンタメビジネス全史』『エンタの巨匠』『推しエコノミー』『オタク経済圏創世記』など。

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