赤字ローカル線は「ガソリン税」で維持すべきだ 「道路財源を回せ」藻谷浩介氏インタビュー

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――そのためには国策的観点から理解を求めることが重要ではないでしょうか。

国策的観点として主要なものは、①自家用車から公共交通への利用者の誘導、②貨物輸送の、トラックから鉄道への移行促進(モーダルシフト)、③経路のリダンダンシー確保、④インバウンド対応、⑤ロシア対応――の5つが考えられます。

①は、自家用車の運転時は、公共交通利用時に比べ、たとえばPCやスマホが利用できず、睡眠もできないなどという個人が意識しない社会的費用の大きさに鑑み、公共交通への利用者シフトを少しでも進めることが国策上重要ではないかという観点。

②は、世界的なCO2排出抑制の要請に加え、生産年齢人口の減少に伴うドライバーの人手不足の深刻化、燃料代の長期的な高騰もあり、民間企業であるJR貨物だけの努力に任せずに国策的に推進し直すべきだとの機運が年々高まっているという観点。

③は、地震などの災害で幹線が麻痺した際に、ローカル線のネットワークがバックアップ効果を発揮する場合があるということです。たとえば東日本大震災の後には、新潟と郡山を結ぶ磐越西線が貨物輸送路として活用されました。②のモーダルシフトを真剣に進めるのであれば、これまで以上にネットワークの維持強化によるバックアップ動線の確保が重要になります。

「ロシア対応」への考慮も

④は、「鉄道に乗ること自体が、多くの国では観光資源と認知されている」ことに由来する論点。世界では、移動の過程そのものを観光資源として活かすスタイルが普通に存在します。クルーズ船しかり、大陸横断列車しかり、観光保存鉄道しかり、時間を贅沢にかけ、時に停まり、景色をゆっくりと楽しむことが魅力となっています。

逆にいえば、せっかく存在していた鉄道が廃止されてしまったために、優れた景観を持つにもかかわらずインバウンド来訪の波が及んでいない地域もあるのは残念です。特に北海道には、旧天北線、羽幌線、名寄線、標津線、池北線、士幌線、広尾線、日高線、胆振線など、残っていたら高く評価されたであろう例がいくつもあります。つい最近の廃止事例である日高線などについては、維持を北海道だけの判断に任せず、インバウンド振興という国策的な観点から対処を考えるべきでした。

⑤のロシア対応というのは、以上に比してさらに特殊な観点ですが、北海道東北部のJR線の存否を北海道だけの負担と判断で決めていいのか、という問いかけです。稚内や根室への鉄路の廃止が、対岸のロシアにどういうサインを与えかねないか、真摯に考えて判断すべきということです。対ロシアの国境地帯である、宗谷海峡や北方領土の真向かいの地域をないがしろにして、何の「国土防衛」なのでしょうか。こうした疑問が「保守」の中から出てこないところに、抽象的に「国土」を論じている人たちの地理感覚の欠如を感じざるを得ません。

櫛田 泉 経済ジャーナリスト

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くしだ・せん / Sen Kushida

くしだ・せん●1981年北海道生まれ。札幌光星高等学校、小樽商科大学商学部卒、同大学院商学研究科経営管理修士(MBA)コース修了。大手IT会社の新規事業開発部を経て、北海道岩内町のブランド茶漬け「伝統の漁師めし・岩内鰊和次郎」をプロデュース。現在、合同会社いわない前浜市場CEOを務める。BSフジサンデ―ドキュメンタリー「今こそ鉄路を活かせ!地方創生への再出発」番組監修。

 

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