「さらば堅実経営」パワー半導体ロームの乾坤一擲 2025年の世界シェア首位を目指して怒濤の投資

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足元ではEV市場の成長鈍化が鮮明化しており、SiCの成長ペースにも影を落とす。だが、それでもロームは2025年を予定していた宮崎工場でのSiCウェハー量産時期を2024年内へ前倒しする方針を表明。「競合とは会社や設備規模でスタート位置が違っても狙うゴールは同じ。ロームのほうが速く走る必要がある」(IR担当者)。

実際に、確保している供給能力は受注に直結する。たとえば、SiCの供給能力を早くから拡充してきたアメリカの競合・ウルフスピード。同社は昨年7月、SiCパワー半導体の基板となるウェハーでルネサスエレクトロニクスと10年間の長期供給契約を行っている。

直近の業績には目もくれず、拡大路線へとひた走るローム。この先、SiC市場で覇権を握るための切り札は2つある。

東芝とEV展開の行方

1つ目は、3000億円を投じた東芝との協業・連携だ。両社は昨年12月、経済産業省から両社合計で1294億円の助成を受けることを発表した。ロームの工場では両社のSiCパワー半導体を、東芝の工場では両社の従来のシリコンパワー半導体を互いに製造し合うという内容だ。

別の国内半導体メーカー関係者の中には「互いの製品を生産し合うというのは、製造現場レベルでは実質的に同じ会社になっているようなもの」という見方もある。だが技術開発レベルで深く連携しようと思えば、単なる「協業」では限界がある。

5月に開示されたロームの決算説明会資料には、「東芝半導体事業とのシナジー効果の可能性について」と題した資料が差し込まれた。技術開発から販売まで連携することのメリットを示したもので、「ロームから東芝への一方的なラブコールに近い」(同社関係者)。

2つ目は、日系自動車メーカーの本格的なEV展開だ。ロームは日本のパワー半導体メーカーで唯一、SiCパワー半導体に使われるSiCウェハーから半導体までを一貫して自社で生産することができる。さらに、これまではドイツの工場でしか生産できなかったウェハーの量産技術の宮崎への移管も進めている。

半導体の調達においては地政学リスクが重視されるようになっている。サプライチェーンを日本国内で完結させていることは今後、日系自動車メーカーのEVが立ち上がってくる際に採用されるアピールポイントになり得るだろう。

多額の投資に見合った成果を発揮することはできるのか。こうしたチャンスをいかにたぐり寄せられるかがカギになりそうだ。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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