世界最高峰の心臓外科医が留学後に受けた「屈辱」 「白い巨塔」にはびこっていた"排除の力"とは

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まず病棟回診、医師ミーティング、その後はボルスト教授のICU(集中治療室)回診に同行。そして8時15分からは手術が始まります。

手術がすべて終わるのが午後3時ごろ。それから昼食をとって病棟を回ったあとに5時からは移植患者の術後管理ミーティングなど……すべてが終わるのは夜の7時過ぎでした。それから宿舎に戻るのですが、そのあとに緊急手術が飛び込み、再び白衣を身にまとうことも多々ありました。

毎日2〜3件の手術に立ち会うことは、日本ではできない経験でした。3つの手術室で、それぞれ2〜3件の手術が毎日行われます。そして驚いたことに、日本では8時間かかっていた手術が2時間前後で終わるのです。

それだけではありません。患者さんの回復も早く、早期に退院していくのです。当時の日本との心臓外科手術のレベル差を痛感しました。

そんな体験ができたことは有意義だったのですが、ハノーファー医科大学留学直後の私のメンタルは相当やられていました。語学学校に通ったとはいえ、私のドイツ語は周囲とコミュニケーションをとるのに充分ではありませんでした。徐々に解消されていくのですが、最初の数カ月はそのことでかなりのストレスを抱えていました。

また、周囲から向けられる目も冷たいのです。「よくわからないよそ者が来た」。ドイツの医師たちは、そんなふうに私を見ていたと思います。初めてボルスト先生の医療チームに加わり、そのやり方を何もわからない私に対して誰も助け船を出してくれませんでした。

私が飛び込んだ世界は、完全なる実力主義社会でした。自分より年上だからとか、先に入ったとかは関係ありません。上手いか、上手くないか。ただそれだけです。

なぜなら、それが患者さんの命を救うことにつながるからです。

おいしくないレストランには行かないでしょう。下手な美容室でわざわざ髪を切ってもらおうとは思わないはずです。どの世界でも同じです。質を確立するためには、量しかありません。「量のない質」はありえません。ただの幻想です。

帰国後に告げられた「忘れられない言葉」

成果を上げているのに、周囲から評価されない。自分のほうがうまくやれているのに、認められない。「実力主義」とはかけ離れたところで、実力を発揮するチャンスを妨げられる―。

これらは病院に限らずどの業界でもあることかもしれませんが、当事者にとってはつらいことです。

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