日テレ・小学館の「調査報告書」に釈然としない理由 「セクシー田中さん」問題はどこに向かうのか
そんな現状は小学館の調査報告書の中にも書かれていました。今後に向けた問題提起のところで、「本事案における日本テレビ側の対応は、異例と思われる。何度修正を申し出ても対応しない場合はどうするかについても対応が必要である」という記述があったのです。わざわざ“異例”と書かれているように「ほとんどない」のが実情なのでしょう。
さらにもう1つ挙げておかなければいけないのは、漫画原作のドラマに関する人々の誤解。筆者は東洋経済オンラインで「『セクシー田中さん』悲劇を受けた春ドラマの現実 あれから4カ月、ドラマ制作は変わったか?」というコラムを書き、5月18日にアップされました。
その中で書いたのは、今春のドラマ全体における漫画原作の割合。ゴールデン・プライム帯で放送されている計16作中、オリジナルは12作(75%)で、漫画原作が3作(19%)、小説原作が1作(6%)と、漫画原作は「5作に1作以下」の割合に過ぎないのです。しかもこの数値は過去1年間・4クール分のデータとまったく同じでした(計63作中、漫画原作は12作の19%)。
民放他局の反応が鈍かった理由
ゴールデン・プライム帯における現在の主流はオリジナルであり、漫画原作のドラマは限られているのです。放送収入の低下が叫ばれる中、「視聴率や配信再生数を獲得しやすい脚本・演出にし、シリーズ化・映画化・スピンオフが作りやすく、グッズやイベントでも稼げるなど、収益性の高いオリジナルを狙う」のが民放各局のセオリー。漫画原作のドラマは反響の小さい深夜帯が主戦場となっているため、出版社としては「できるだけ反響の大きいゴールデン・プライム帯でドラマ化してほしい」という切実な思いがあるのです。
そのため民放他局としては、「『セクシー田中さん』の件は過剰に意識しすぎる必要性はない」というのが本音。日ごろ原作者や出版社への丁寧な対応を心がけていることもあって、「同じようなことは起きないだろう」と見られているところがあります。
また、このところ「プロデューサーが原作者と直接交流を持つ」「ドラマのホームページなどで原作者にポジティブなコメントをしてもらう」「原作者に自身のSNSでドラマを宣伝してもらう」などの対策が取られはじめていたことも、民放他局の反応が鈍い理由の1つでしょう。
もちろん「5作に1作以下」に過ぎず、大半のスタッフが丁寧に対応しているとは言え、今回の出来事を「レアケース」と軽視すべきではなく、テレビ局と出版社には、いかに「レアケース」を「ありえないケース」に近づけていくかの取り組みが問われています。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら