キューバは被曝者治療の経験を持つ医師団を日本に派遣する用意がある--アレイダ・ゲバラ氏に聞く

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--カストロ前議長引退後、弟のラウル・カストロ議長の指導のもと、キューバは目下、経済改革を進めていると聞きます。一部、市場経済を導入する動きもあるようですが、今後キューバ経済が目指すのはどのような形でしょうか。

経済改革でもなく、市場経済を取り入れているわけでもありません。現状あるような問題を、経済的にどのように解決するかを探っているのです。社会主義体制のままで、どれだけ内需を増やせるか、という改革をやっています。一部では、個人が商店を開く動きもあり、こうした人たちは自分たちの暮らし向きを基準にものを考えるようになります。だから、当面はこうした新たな動きによって社会的意識が高まることに対して懸念はあります。リスクがあるとすれば、こうした人たちが自分はまだ社会主義国家に存在しているということを忘れてしまうことです。

一方で、キューバでは教育費も医療費も依然無料であり、軍隊も国民に帰属します。私たちは今後も社会主義を基本にたとえば個人レベルでは別の可能性を探っていくことになりますが、それがどう作用するかは将来を見なければわかりません。

--米国の新聞などは「キューバは市場経済へ移行している」と報道していますが。

彼らがそう思いたいだけでしょう(笑)。欧州で社会主義体制が崩壊した際、キューバは大きな経済的打撃を受けました。現在は政府がきちんと人々を雇用して、雇用されていない人にも給与を払っています。(社会主義体制崩壊から)時間が経ち、キューバ経済は回復して、04年には米州ボリバリアーナ同盟(ALBA)が始まりました。

ALBA以降、キューバはラテンアメリカ諸国とより多くの貿易を行うようになったのと同時に、世界では経済不況が起きていました。その結果、何が起こったかといえば、キューバでは働かない人を支援していくのが困難になってきたのです。だからといって、こうした人たちに支援を与えないわけにはいかないので、新たな方策として個人的な事業を興せるようにしたわけです。

ALBAによって、たとえば建設資材や革、繊維といった新たな素材が必要になったため、こうした分野では個人が利益を上げるためではなく、尊厳を保つために事業をできるようにしたのです。これが現在起こっている「経済改革」です。この改革はキューバ国民によってきちんと議論され、承認されたものです。

--被災地の方にメッセージはありますか。
 私は今回のような大きな災害にあったことがないので、皆さんのお気持ちがわかります、と言っていいのかわからないのですが、今回被災地の現状を目の当たりにして、皆さんがどれだけ大きな絶望感を抱いているのかは想像に難くありません。私に言えることは、前を向いて強く、尊厳を持って生きていかなければならない、ということです。復興にはたくさんのことが必要だと思いますが、日本人はとてもハードワーカーであるし、この国であれば前を向いて進んでいけると信じています。

今回の滞在では被災地でも直接訪れられなかったところがたくさんあります。特に働く女性の小児科医として、現地で被害に遭われた多くの女性を励ましたかったし、何か彼女たちの力になれたらと考えています。

(聞き手:倉沢 美左 撮影:尾形文繁 =東洋経済オンライン)

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