JR九州の新列車「かんぱち・いちろく」何が違う? 座席や窓など随所に「脱・水戸岡デザイン」

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不安とプレッシャーにさいなまれる日々。だが、ある日、八幡社長が会議の合間にトイレに入ったとき、会議に参加している若いエンジニア同士の会話が聞こえてきた。「2号車の仕事は大変だね」「でも完成すれば、その達成感はたまらないよね」。八幡社長は彼らに背中を押されたように感じたという。

かんぱち・いちろく 2号車
「かんぱち・いちろく」の2号車(撮影:尾形文繁)

新たな観光列車に使われる車両は2023年10月に「いさぶろう・しんぺい」として最後の乗車ツアーを行った後、すぐに客車内の改装作業に着手。年が明けた2024年1月頃から内装作業を開始し、なんとかゴールデンウィーク前の運行開始に漕ぎつけた。

デザインは「ナチュラルモダン」

こうして完成した車両のデザインは、これまでのJR九州の車両とは明らかに違っていた。水戸岡デザインの車両を「豪華絢爛」と言い表すなら、新たな観光列車は「洗練」という表現がぴったりくる。それを八幡社長は「ナチュラルモダン」と評する。「私たちがデザインしたというよりも、JR九州の各部署の方々と数十回も会議をして、古宮社長にも何度も足を運んでいただいて完成したデザインです」。

黒い外観はこれまでの水戸岡デザインを踏襲しているようにも見えるが、違いはある。たとえば、「ふたつ星4047」には先頭車両のてっぺんに2つ重ねた星形のマークが載せられているなど凝りに凝った装飾が細部に至るまで施されているが、「かんぱち・いちろく」はこうした装飾がなくすっきりとしている。

車内に足を踏み入れると、1・3号車の畳個室は水戸岡氏が得意としたデザインを想起させるが、ほかの部分では、水戸岡氏が手がけた車両にしばしば搭載されていた大川組子のような装飾物は見当たらない。ソファの生地もシンプルで水戸岡デザインの車両でよく見られる意匠はない。1号車のソファ席や3号車のボックス席はシティホテルのラウンジのようなイメージだ。

かんぱち・いちろく 1号車
「かんぱち・いちろく」1号車のソファ席(撮影:尾形文繁)
かんぱち・いちろく 3号車内
「かんぱち・いちろく」3号車のボックス席(撮影:尾形文繁)
かんぱち・いちろく 畳個室
「かんぱち・いちろく」3号車の畳個室(撮影:尾形文繁)

水戸岡デザインの車両では窓に縁を付けて小さめにしたり、障子を用いたりしていた。水戸岡氏は窓を額縁に見立てて、車窓の景色がどう見えるかに腐心していたのだ。一方の「かんぱち・いちろく」は余計な飾りを廃しているため窓に大きさが感じられ、外の景色がストレートに飛び込んでくる。

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