安倍元首相の不毛な宣言が日韓関係の改善を縛る 元徴用工問題、日本も人道的に歩み寄るべきだ

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そうした前政権からの積み残し課題の筆頭といえるのが、徴用工訴訟をめぐって極度に悪化した日本との関係改善だ。韓国大法院(最高裁)の判断を迂回する形の第三者弁済という尹政権の解決策は、日本では称賛されても韓国内では批判がやまない。

「日本からの圧力で韓国の司法判断がないがしろにされた」と反感を覚える韓国人が多いのは自然なことだ。どれほどの影響を与えたかを数値化することは難しいが、尹政権の支持率低迷の一因となってきたのは否定できない。

難しくない外交に終始する岸田文雄政権

であればこそ、日本の政府・経済界は今回の総選挙を見据えて尹大統領を「援護射撃」すべきであったのだが、「熱しやすく冷めやすい」かのように徴用工訴訟問題の後続措置に対する関心は低下した。

韓国総選挙のとき、岸田首相が訪米中であったのは、たまたまであったとはいえ、日本外交のアンバランスを象徴しているように思える。

岸田首相はアメリカ連邦議会におけるスピーチで「日本の国会では、これほど素敵な拍手を受けることはまずありません」と自民党の裏金問題を棚に上げてのジョークを交えて英語で語った。それは、発音練習をはじめ、いかに岸田政権が訪米に向けて入念な準備を重ねたかを端的に示していた。

日本の安全保障政策を考えれば、岸田首相がバイデン政権や議会と良好な関係を構築することが重要であるのは論をまたない。そのためには、ジョーク交じりのスピーチだけではなく、アメリカの防衛装備品を購入したり自衛隊と在日アメリカ軍の連携強化を表明したりするといった実質的な貢献策を打ち出すことも、必要なのかもしれない。

だが、やはり偏りすぎている。もとから関係が良好なアメリカの歓心を改めて買うのは、それほど難しくないのだ。そうした「難しくない外交」にばかり注力して韓国や中国、さらには北朝鮮との「難しい外交」に関して、第2次安倍政権以降の自民党政権は果たしてどれほどの成果を挙げたのであろうか。

アメリカから戻った岸田首相は2024年4月17日、尹大統領と電話で会談した。外務省によれば、時間は約15分間。発表された内容をみても、「岸田首相からアメリカ訪問の結果について説明し、尹大統領は情報共有に感謝し、両首脳は引き続き日韓・日韓米の連携を深化させていくことで一致した」という。時間も内容も、通り一遍だ。

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