田中均が予測 「日本が備えるべき地政学リスク」 世界の構造変化は9.11同時多発テロから始まった

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「米国は軍事介入する」という意図が、中国の軍事侵攻を抑止してきたが、仮にトランプ政権が誕生すればこの意図が薄れ、中国との取引を優先するといったおそれがないわけではないだろう。

朝鮮半島では、ロシアと北朝鮮の接近が新しい地政学リスクを生んでいる。ウクライナ戦争で孤立しているロシアと北朝鮮は軍事を中心に関係を強化。ロシアは国連制裁の監視パネルの任期延長決議に拒否権を行使し、北朝鮮をめぐる安全保障理事会決議は今後、ロシアの拒否権を想定せざるをえなくなる。

韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)政権は、日米韓の安全保障協力による抑止力強化を軸に、前政権の対北朝鮮融和主義を大きく変更している。これに対し北朝鮮は究極的な民族統一の旗印を放棄し、韓国を主敵と位置づけたうえで強硬な姿勢に転じて朝鮮半島の緊張を高めている。

米欧がウクライナ支援をいつまで続けられるのかという疑問もある。トランプ大統領が再登場すれば再び米欧の連携は崩れる。G7(主要7カ国)の対ロ経済制裁は、中国やインド、さらには「グローバルサウス」といわれる主要途上国がロシアとエネルギーを含む経済関係を維持していることにより、事実上効果が薄れている。

また、ロシアとイランや北朝鮮との軍事協力関係も強化されつつある。中東ではハマス、ヒズボラ、フーシ派といったイランの支援を受けたイスラム過激軍事集団がイスラエルや米国を標的に軍事作戦を展開している。

現段階ではイランはイスラエルや米国との正面切った対決に進むのではなく、ロシア、中国との協力関係を強化して米国の影響力を排除することを企図するのだろう。

核開発のドミノ

一方、東アジアでは日米の対中戦略が大きな意味を持つ。安全保障面については、日米の統合的抑止力の向上を図ると同時に、台湾や朝鮮半島問題も念頭に中国との安保対話を継続強化していくべきだろう。

朝鮮半島について中国は、北朝鮮の核開発は韓国や台湾にも核開発のドミノを起こしうるとして警戒的であり、また何よりも朝鮮半島で戦争が起きることは避けたいと考えているはずだ。ロシアと結託し、北朝鮮を支援することには慎重だろう。日米は朝鮮半島の非核化について中国と協力する余地を探求するべきだ。

日本は東アジアのさらなる緊張を避けるため、米国との同盟関係の強化だけではなく、対中戦略をよく練っていく必要がある。日本が政治経済面で米国につねに同調する必要はなく、分断を避ける意味でも中国を関与させる政策を取っていく必要もあるだろう。

田中 均 日本総合研究所 国際戦略研究所 特別顧問 前理事長

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たなか・ひとし / Hitoshi Tanaka

京都市生まれ。(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー。1969年京都大学法学部卒業。外務省に入省後、1972年にオックスフォード大学修士課程(哲学・政治・経済)修了。北米局北米第二課長、アジア局北東アジア課長、在英大使館公使、総合外交政策局総務課長、北米局審議官、在サンフランシスコ総領事、経済局長、アジア大洋州局長を経て、2002年より外務審議官(政務担当)を務め、2005年退官。東京大学公共政策大学院客員教授(2006~18年)。著書に『外交の力』(日本経済新聞出版社)、『プロフェッショナルの交渉力』(講談社)、『日本外交の挑戦』(角川新書)、『見えない戦争』など著書多数。

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