田中均が予測 「日本が備えるべき地政学リスク」 世界の構造変化は9.11同時多発テロから始まった
現在、「もしトラ」(もしトランプ前大統領が再度政権を取ったら)が語られるが、本質的な問題は米国での極めて根深い体制批判が分断につながっていることだ。
20年間にわたる中東での戦争、08年のリーマンショック、コロナ禍による多数の死者、かつてないほどのインフレ。年間250万人を超えるとされる不法移民の流入。45年には白人が少数派となる見通し。さらには、所得格差のさらなる拡大。もはや既存の体制は信用を失った。エスタブリッシュメントのバイデン大統領と対比して、トランプ氏は4件の刑事訴訟を抱えつつも政府や政党、メディアなど既存体制の批判の象徴として支持を増やしている。
11月の大統領選挙の結果にかかわらず、米国の内向き傾向は変わらないだろう。トランプ氏は中長期的な利益よりも、短期的な利益に目を奪われるだろう。同盟国にはより大きな負担を求める。移民の制限は強化されるだろうし、保護貿易的傾向は強まっていく。
中国の習近平体制は3期目に入り、国内引き締めは強化される一方で、経済は変調期を迎えている。中国経済は23年に5.2%成長となったが、不動産バブルや若年労働者の失業率高止まり、国内消費需要の低迷など深刻だ。反スパイ法に基づく外国人監視も強化され、外国資本にとって中国への投資リスクは高い。
米中関係崩壊と台湾有事
米中関係は対立一辺倒ではない。もちろん、安全保障関係では対立を続けるだろうし、政治的な競争関係は先鋭化する。共産主義一党体制の下での人権侵害や法の支配の欠如は、民主主義体制が看過できることではない。
しかし経済関係では引き続き両国間の貿易は高いレベルで推移しており、基本的な相互依存関係は維持されている。もちろん先端半導体など軍事に転用されうる高度技術の対中輸出は厳しく規制され、これがどこまで強化されるのかという問題は残る。さらに、気候変動問題や大量破壊兵器の拡散などでの米中間の協力関係は相互を利する。
このような米中関係がバランスを崩し、対立から衝突に至る契機となるのは台湾情勢だ。独立志向の強い台湾・民主進歩党(民進党)の頼清徳副総統が次期総統に選出された一方、議会で同党は過半数を割った。それでも、現状が大きく変わるとも考えにくい。
中国は、少なくとも当面は経済を優先するだろうし、中国側から台湾の武力統一に動き出す可能性は現時点では低い。ただ、中国は23年に続き今年も7%を超える軍事費の伸びを計上しており、中長期的には台湾海峡をめぐる軍事バランスは中国有利に展開する。
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