「地位も名誉も失っても」ギャンブル依存症の怖さ 「意志の問題」ではなく「病気」という認識を持つ

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自分や家族がギャンブル依存症かもしれないと思ったら、地域の精神保健福祉センター、当事者や家族に対する民間団体や自助グループ、依存症治療の外来を持つ精神科病院とつながることを田中さんは勧める。

ただ、「当事者本人が自ら専門家に相談に行くことはほとんどない」ため、家族だけでも早めに相談することが大切だ。

家族が「絶対」やってはいけないこと

対策として絶対やってはいけないのは、家族や周りの者が借金の肩代わりや尻ぬぐいをすること。これを“イネーブラー”といい、お金を渡し続けた結果、依存症がより深刻化してしまう危険性が高い。

「闇金融の取り立てを恐れる家族が多いですが、借金清算の方法はたくさんあるので、相談してくれれば自助グループや家族会が具体的にアドバイスをすることができます。当事者は落ちるところまで落ちないと、『回復したい、治療を受けたい』と思うようにはなりません」(田中さん)

できるだけ早く本人に「底つき体験」をさせることが、真の手助けとなるという。

本人が精神的に追い詰められているような場合は医療機関を受診し、うつ病などほかの病気が併存していないかを調べることも必要だ。

ほかの病気がない場合は、「当事者同士のピアサポートが何といっても有効だと思います」(田中さん)。そのほか、カウンセリングや認知行動療法などによって回復を図っていく。

ギャンブル依存症者の数が多いにもかかわらず、日本では「本人の意志の問題」と片づけられ、病気だという認識がなかなか広がらないのはなぜか。その主な理由は、「国による啓発や予防教育が足りないから」と田中さんは指摘する。

オンカジの場合、アフィリエイト広告や著名ユーチューバーの動画、タレントを起用したCMなどが氾濫し、若者がギャンブルに手を染める入り口となっていることから、そうした広告を取り締まる法整備も必要だという。

2030年に大阪でカジノを含む統合型リゾート(IR)が開業すると、ギャンブル依存になる可能性も増えるため、「考える会」はギャンブル場の運営側に依存症対策を担うことも求めている。

「日本と海外の最も大きな違いは、ギャンブル場運営側が依存症対策をほとんど負担していないことです。依存症者が犯罪に走れば受刑者の収容費用が発生し、犯罪まで及ばなくても、社会復帰ができなければ日本社会の損失になります」と田中さん。

それなのに、国民だけがその負担を担うのはおかしな話だという。ギャンブルをしない人たちも、この問題に関心を持つべきではないだろうか。

井上 志津 ライター

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いのうえ しづ / Shizu Inoue

東京都生まれ。国際基督教大卒。1992年から2020年まで毎日新聞記者。現在、夕刊フジ、週刊エコノミストなどに執筆。福祉送迎バスの添乗員も務める。WOWOWシナリオ大賞優秀賞受賞。著書に『仕事もしたい 赤ちゃんもほしい 新聞記者の出産と育児の日記』(草思社)。

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