養老孟司×ヤマップ春山対談「こどもを野に放て」 思い通りにならない自然と折り合いをつける力
朝は日の出とともに起きて、100段の階段を登ったところにある水場で水を汲くみ、一から火を起こして食事をつくります。うまく火を起こせなければ、自分たちが食べるものはありません。
とにかく自分で身体を動かさないと生きていけないというスパルタなキャンプで、大人が手取り足取り教えるようなこともしない。
一食ぐらい食べられなくても、大したことはないのですが、こどもたちはそうなったら大変だと、目の色を変えて、本気で取り組みます。﨑野さんは「一日やったら、こどもたちは慣れますよ」と言ってましたけどね。
このキャンプで彼らが何を学ぶかというと、一番は身体性ですね。
自然に親しむも何も、人間にとって、自分の身体は最も身近な自然です。自然というものは思うようにはならないということを、こうしたキャンプを通してあたりまえのように親しんでしまうわけですね。
春山 そのキャンプで過ごす前と後とで、こどもたちはどう変わっていくのでしょうか。
養老 﨑野さんは、このプログラムを全国展開したいということで、説得材料としてキャンプに参加しているこどもたちの血液検査をしたりホルモンを測定したりしています。
今はそういうふうにデータを出さないとなかなか理解してもらえないのかもしれませんが、そもそもこどもをそうやって野山の中で自由に遊ばせていれば元気になるに決まっています。
それなのにエビデンスが必要だと言う人を説得するなんて、僕自身はやりたくないですね。「自分でやってみればわかりますよ」と。それで終わりです。
春山 確かにそうですね。データがなくても、自分で実際にやってみれば身体を使う気持ちよさや、自然の中で過ごす意義も実感としてわかるはずです。
わからないままにしておく力を身につける
養老 身体や脳のいろいろなデータを測って、それを基に教育政策を考えるのは、ちょっと危険な気がしますね。
現代の医療もそのような傾向が強くなっています。医者は目の前にいる患者の身体より、検査で出てきた数字だけを見て、その数値を正常値に戻すことが仕事になってしまっている。
でも、そんなことをしなくても、当人が元気で動いていればいいんですよ。