趣里の歌は、いかにも鍛えられたプロ、というよりは、地声・地肩をぶんぶん震わせて歌っている感じで、これは、当時の音楽界において、笠置シヅ子が、音大(東洋音楽学校)出身の淡谷のり子とは違う「叩き上げ」だったことと通じる。
ここで少し細かい話になるが、先の『大空の弟』のところで「生歌」という表現を使った。あの『大空の弟』のシーンは、趣里が生で歌うのをそのまま収録したものだった。他にも、趣里が母(水川あさみ)の死を前に『恋はやさし野辺の花よ』を歌うシーン(11月23日)や、列車の中で『ふるさと』を歌うシーン(12月12日)などは趣里の生歌をそのまま収録していた。
逆にいえば、『大空の弟』を除く、ステージ上での多くの歌唱シーンは事前録音、いわゆる「口パク」ということになる。
だからといって、例えば『ラッパと娘』の初出回(11月10日)の価値が減じられるものではないし、事前録音ゆえに激しく歌い踊ることができたのだが、視聴する側はまことに現金なもので、『大空の弟』の生歌の迫力を一度味わってしまったことも、それ以降の事前録音した歌唱シーンへの視聴テンション低下につながってしまったように思う。
『ブギウギ』とは、一言でいえば…
さてここからは、「早すぎる全体総括」を進めていくのだが、その大前提として、とにもかくにも『ブギウギ』とは、一言でいえば趣里の奮闘だった。
朝ドラのヒロインには4度目の挑戦、2471人が応募したというオーディションにおいて、募集年齢上限の32歳で選ばれたという(現在は33歳。見えないが)。大抜擢と言わざるを得ない。
4歳からクラシックバレエを始め、中学卒業後にはロンドンの名門バレエ学校へ留学するも、大けがをして諦めたという経歴を知っていたので、踊りについては安心していたのだが、歌は正直、期待を大幅に上回った。
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