「尊敬するお子さま」は金正恩の後継者なのか? 父娘のツーショット写真を公開する政治的意図

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少女の姿は軍事関連のイベントのみならず、道路の着工式や養鶏場への視察といった経済関連行事で金正恩と一緒に見られるようになった。父娘のツーショット写真も次々に公開されている。写真の構図は、金正恩が後継者として表舞台に出てきた頃に金正日と写ったものとそっくりである。

まだ若い娘の存在が公開された理由は不明だが、何らかの政治的意図があるのは確実である。金正恩時代に入ってから、北朝鮮では「白頭の血統」に加えて「革命のバトン」という言葉も頻繁に使われるようになった。何らかの形で後継問題に関係していると考えるのが自然な解釈であろう。

ただし、金正恩の家族構成の全体像は明かされていないことに注意しなければならない。韓国の情報機関である国家情報院は、少女の姿が公開された際に第2子であり長子は男、第3子は性別不詳であるとの見方を発表したが、未確認情報に過ぎず、そのままキャリーすべきではない。

娘の名前は「ジュエ」なのか?

娘の名前と関連しては、アメリカの元プロバスケットボール選手のデニス・ロッドマンの証言が注目された。金正恩に招かれて2013年9月に訪朝した際、「キム・ジュエ(김주애)」という名前の娘に会ったというものである。ただ朝鮮語を解さないロッドマンがその名を正確に聞き取れたかどうかもわからない。

ここでは、日本のメディアが金正恩の名を長らく「金正雲(김정운)」と表記していたことが想起される。2009年秋に『毎日新聞』が入手した内部文書によって、カタカナで表記すると同じ「キム・ジョンウン」ながらハングル表記は異なる김정은であることが判明した。その後、キム・ジョンウンの名前が 2010年9月に初めて公式報道に出てきた際、ようやく「金正恩」であることが判明したのである。

金正恩の母親コ・ヨンヒも長らく「高英姫(고영희)」だと考えられてきた。しかし、平壌で墓参した複数の証言者によると墓石に刻まれた2文字目は「영」ではなく、発音の異なる「용」だという。これに依拠して相当する漢字を当てれば「高容姫」である。とりわけ北朝鮮情勢をめぐっては、確認された情報と未確認情報を区別して考えることが必須であることは言うまでもない。

礒﨑 敦仁 慶應義塾大学教授

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いそざき あつひと / Atsuhito Isozaki

慶應義塾大学教授。1975年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部中退。在学中、上海師範大学で中国語を学ぶ。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省専門分析員、警察大学校専門講師、ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共編に『北朝鮮と人間の安全保障』(慶應義塾大学出版会)など。

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