命の危機でも「人工中絶拒否」米国の痛ましい現実 共和党支持者中心に人工中絶反対の流れが加速
しかも2022年6月にはアメリカの連邦最高裁が、「中絶は憲法で認められた女性の権利」であるとする1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆してしまい、世界中を驚かせたことは記憶に新しい。
決して喜ばしくない形で、この映画がタイムリーな題材となってしまったわけだが、性別によって、生まれた環境によって、なぜ人としての権利に違いが生じるのだろうか。
本作のメガホンをとったフィリス・ナジー監督に話を聞いた。ちなみにナジー監督は映画『キャロル』の脚本家として知られ、本作が長編映画としての監督デビュー作となる。
――本作に登場する「ジェーン」は実在した団体で、人工妊娠中絶が違法だった1960年代後半から70年代初頭にかけて、推定1万2000人の中絶を手助けしたと言われていますが、これが実話であることに驚きました。これはアメリカでは有名な事実なのでしょうか?
「ジェーン」は映画にも描かれていた通り、秘密裏に行われていた活動なのでそれほど社会的に広く知られていませんでした。やはり、2022年に最高裁の判決で、ロー対ウェイド判決が覆されてからは、いろいろなドキュメンタリーでも描かれるようになり、今ではより多くの人に知られる事実となりました。
映画が社会に追いついてしまった
――この企画を準備していたときに、投資家からいい返事が返ってこなかったり、同じ考えを持つ人たちからも「ちょっとこれに参加するのは厳しい」というような声があったと聞きました。この題材に対してタブーのような雰囲気がアメリカでもあったということなのでしょうか?
今でこそ、最高裁がロー対ウェイド判決を覆したことによって、この中絶問題にも注目が集まっているのですが、実はこの企画が始まったときはそこまで差し迫った感じではなかったんです。
われわれ女性が持っている権利も、別に剥奪されるわけがないし、そんなに差し迫った問題じゃないんじゃないか、と楽観視されていたんです。今だったらよりつくりやすい環境にはあると思うのですが、どちらにしても完成にこぎつけることができて本当によかったと思います。
というのも、例えば日本でもニュースが入っているかもしれませんが、アラバマ州とかでは共和党の支持者が多い州ということで、中絶を原則禁止する法案が可決されています。
今では体外受精で使うための受精卵を凍結保存した「凍結胚」までも子どもとして認めるという判決が下されてしまいました。だからむしろこの映画で描かれている社会情勢というのは、まだまだおとなしいほうなんじゃないかなと思っています。そういう意味で、この映画が社会に追いついてしまったという感じがしています。
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