2つめは、和装を楽しむ日本人の「日本1億人」ではなく「世界80億人」からの認知と評価である。
「西陣→NISHIJIN」への変貌が1500年の伝統を守る
運輸・移動手段やインターネットなどのテクノロジーにより世界の距離が縮まるなか、ある文化圏での「伝統」は、何も手を打たなければ衰退の一途をたどる。
酒類であれば、日本では日本酒、ドイツではビール、イギリスではウイスキー、フランスではワインといった伝統的な酒類の消費量が、その原産各国で激減しているのをご存じだろうか。
ただし、これらの酒類が消えていない、場合によっては成長をしているのは、外国の需要の開拓に投資を続けているからである。
寿司などの世界的な「和食ブーム」の中で「SAKE」はより世界で親しまれ、また世界で勝負ができなければ時代の波の中で消えていく。
音楽、娯楽、伝統工芸でも同じく、伝統を守りたければ世界に向かうという変化が求められている。
西陣織が「NISHIJIN」へと変貌することが、その1500年の伝統を守ることにつながるだろう。
今回の取材前には、京都で複数の織元や美術館を巡ったが、カバン、ネクタイ、テキスタイルアート、家具、美術品など、帯以外の需要をつくり出す積極的な取り組みは数多く見られている。
私も、金糸が織り込まれ、裏地までこだわりがある素晴らしいネクタイを1本購入した。
実際に欲しいものがあり、それを購入して身につけることで、人々の西陣織へのロイヤリティーは大きく高まる。
世界からの認知と需要を獲得する進化に手を緩めてはならないだろう。
3つめは「生産現場の革新」である。
「現在の古民家の中の作業場とはまったく違う場所に、新しい発想の工場を作りたい」と源兵衛氏は言う。
一部私の想像も入るが、その新しい工場とは、働く人が前後の工程のつながりを強く意識でき、単能工ではなく多能工として働き、現代の計器を備え、高齢の職人が若手に技術を伝承できるものだと思う。
産業革命以降の完全な機械化は馴染まないだろうが、現在の家内制・問屋制手工業から工場制手工業(マニュファクチュア)への転換は、後継者問題を解決しながら、西陣織の美と美術を紡ぐためには必要だろう。
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