「寿命が短くなる食事」とそうではない食事の差 「命の回数券」減少を抑制する遺伝子の働き

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(画像:『最新科学で発見された 正しい寿命の延ばし方』より)

2000年のマサチューセッツ工科大学の研究によって、テロメアの減少を抑制(短くなる頻度を少なく)し、老化した細胞を修復する長寿遺伝子を発見しました。それが「サーチュイン遺伝子」です。サーチュインはタンパク質のアセチル化、つまり老化した細胞の傷を修復する機能を上昇させ、テロメアの機能を回復させる効果があるわけです。

赤ちゃんのときはテロメアが長く元気な細胞です。ところが、20歳程度を境にテロメアは徐々に短くなっていき、細胞はそれ以上分裂できなくなり、その結果、細胞は制止し、細胞死を迎えます。細胞が制止した状態から、赤ちゃんのときのように元気な細胞に戻してくれるのがサーチュインの作用です。

生きるための力と死に向かう力は均衡状態にある

このサーチュイン遺伝子は、普段は人間の体内ではあまり活躍していません。これは研究段階で理由はまだはっきりしていませんが、人間には「恒常性」という食べたり息を吸ったりする生きるための力と、「寿命」という死に向かう力があり、両者が通常は均衡しています。つまり、死にそうな状況になればそれに抗って体は生きようとするのです。

2010年のチリの鉱山落盤事故で17日間閉じ込められた後に生還できたのも、サーチュインが活性化したからということは十分にあり得ます。

最新科学で発見された 正しい寿命の延ばし方
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ここまでの話を聞くと、「じゃあサーチュイン遺伝子は死にそうにならないと活躍しないのでは?」と思うかもしれませんが、なにも死にそうでなくともいいのです。体が死に向かうベクトルが近いと思わせればいいのです。日常的に死が近いと思わせる方法は、空腹です。反対に食べ過ぎてしまうというのは、生きるベクトルが強すぎる状態です。

通常の食事量から30%のカロリーをカットすると、サーチュインが活性化します。チリのトンネル事故の話も、1日おきに缶詰のツナを2さじ、クラッカーを半分くらいしか食べられなかったからこそ、カロリーをカットすることになりサーチュインが活性化したのかもしれません。

今井 伸二郎 代謝機能研究所所長

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いまい しんじろう

1984年、東京大学大学院農学系研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。日清製粉株式会社中央研究所勤務。2002年博士(医学)(東京医科歯科大学)。2005年東京農工大学非常勤講師。2010年静岡県立大学客員教授。2014 年東京工科大学教授。著書、監修に『機能性食品学』(コロナ社)、『花粉症等アレルギー疾患予防食品の開発』(シーエムシー出版)がある。

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