「第2青函トンネル」議論はどこまで進んでいるか 津軽海峡にもう1本、貨物と新幹線が別々に走る

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重点プロジェクトとして現在、全国に12の構想を描いている。その一つが「津軽海峡トンネルプロジェクト」、すなわち第2青函トンネルで、JAPIC案は現ルートに並行して竜飛ー福島間に内径15mのトンネルを建設し、その上段に上下1車線ずつの自動運転自動車専用道路(乗用車も自動運転を想定)、下段に単線の貨物列車専用の線路と、その両脇に避難通路兼緊急車両の走行路を設ける。車道を自動運転に限定するのも、鉄道を単線とするのも小断面として建設費を抑えるためで、海底区間へのアプローチは現トンネルより短く、海底下の土被りも浅い位置で考える。

もちろん、JAPIC案がそのまま採用されることはないにしても、絵空事では意味をなさないので、20~30年後の技術を想定しながら、プロジェクトごとに10名前後の専任チームを編成して実現可能なまでに詰めた精度で、設計のみならず、工程から事業方式、詳細な収支見通しに至るまで立案されている。建設期間は15年で、事業費は概算7200億円と見積もる。

これを実現させれば、函館ー青森間の自動車の所要時間は5時間から2時間半に短縮、同区間の大型車の物流コストは46%削減、高速バスによる新しい交通手段も生まれ、現トンネル経由の新幹線は全列車の高速化が可能で東京―札幌間4時間台になる。食の安定供給に加え、安全保障的に海外からのエネルギー供給が途絶した時、北海道を再生エネルギー基地とすれば本州に届けられる。ベースは経済効果、ストック効果であり、物流の増加、交流人口や観光消費による経済効果は年878億円と弾いている。

第1次のプランは2017年に発表され、その後、第2次案にブラッシュアップされている。2020年末には当時の赤羽国交大臣宛に提案された。現在はシンポジウム等を重ねて広く実現への機運醸成を図っているところだ。

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先送りが招いた現状に対する将来の姿は?

北海道新幹線を巡っては、さまざまな問題や課題を抱え、さまざまな動きがある。それにしても、いずれの問題も今になって発覚したことではなく、新幹線の札幌延伸を決定する頃からわかっていたはずだ。しかし、問題が大きいだけに課題として向き合わず、当面に処理すべきことを優先して、先延ばし、先送りにしてきたのが実情ではないだろうか。結果、外的な新たな問題も加わって難題としてより大きくなってしまったのだろう。

2030年度末まであと7年、その数年前までに決めるべきは決めておかないと、時間切れで必要な準備すらできなくなる。北海道新幹線が札幌まで開通する頃、ニュースはどのような国内事象を報道しているだろうか。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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