ウクライナ戦争で露わになったEU内の格差問題 ヨーロッパの農家はなぜ抗議活動を行うのか

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一方のフランスではいくつかの複合的問題で農民の抗議が起こったのだが、根本的原因はウクライナ問題にあることでは共通している。

複合的である理由は、環境税の支払いがそのきっかけである点だ。環境に悪影響を与える農薬の使用に対してその生産物に課税するというものだが、これによってフランスの農家は当然価格の点で不利となる。

「ウクライナ戦争」という共通点

しかも、ウクライナ戦争によるインフレも手伝い農産物価格が上昇する中で、EU以外の国と自由貿易を結び、そこから安い生産物が来るという政府の政策の追い打ちも手伝って、国内の農産物は価格競争で太刀打ちできなくなってしまったのである。

フランスの場合、相手はウクライナやニュージーランドといったEU外だけではない。EUのスペインとの間でも、こうした環境基準をめぐって対立している。環境基準が違うスペイン産の農産物がフランスを直撃しているという問題である。

だから農民はスペインとの国境の封鎖も行った。エコロジー規制の低い国から農産物が入ってくれば、エコロジー規制をする意味がなくなってしまう。政府のいうことをまともに聞けばろくなことはないというわけだ。

EU内の商品にはさまざまなEU独自の規制があるが、完全に統一されているわけではない。大学教育もそうで、教育水準の低い国、高い国、卒業の厳しい国と厳しくない国がある。

「エラスムス制度」は、その格差を是正するための制度で、教員の交流、留学の促進を図り平準化を進めてきたのだが、それは簡単なことではない。

フランスで問題になっていることに、医者の免許取得の問題がある。フランスの大学医学部への入学は簡単だが卒業は難関だ。

多くのフランスの医学部崩れの学生は、ルーマニアの大学に流れる。ルーマニアの大学で卒業し、そこで医師免許資格を取りフランスに戻ってくるのである。慢性的に医師不足だから国民としては助かるが、フランスの医師免許取得者とルーマニア医師免許取得者に差があるとすれば、国民医療の水準にとって問題だ。

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