経済復興 大震災から立ち上がる 岩田規久男著 ~幅広い視点から具体的に提言
東日本大震災は被災地に甚大な被害をもたらしただけでなく、電力不足やサプライチェーンの寸断を通じて日本経済全体に大きな影響を及ぼしている。大震災から立ち上がり、新たな一歩を踏み出すためには、被災地の一刻も早い復旧・復興と併せて経済活動の正常化を実現していくことが必要となる。
こうした中で緊急出版された本書には、復興のために講ずべき経済対策についての興味深い提案が示されている。本書の大きな特徴は、関東大震災と阪神・淡路大震災という二つの震災と、太平洋戦争の戦禍からの復興の経過を振り返り、その評価を踏まえて今後の復興政策のあり方を論じていることだ。具体的な提言の内容は、災害に強く弱者・高齢者に優しい町づくり、原発中心のエネルギー政策からの転換、復興に向けた財政金融政策のあり方と多岐にわたるが、大きな論点となるのは復興国債の発行と日銀引き受けによって復興財源を確保すべきという提案である。
復興財源を時限的な増税によらず国債発行によって調達し、長期にわたって負担を平準化することは、標準的な経済分析の枠組みに沿った適切な対応であるが、復興国債の日銀引き受けについては賛否が分かれるところだろう。「日銀が国債を直接引き受けてもハイパー・インフレにならない」という著者の主張はそのとおりだとしても、市場を通じた国債の買い入れという代替的な金融調節の手段がある中で、財政規律を弛緩させるというコストを払ってまで日銀引き受けを実施することのメリットがどの程度あるのか、慎重な見極めが必要と思われる。
このように引き続き検討すべき課題も残されているが、大震災からの「経済復興」を考えるうえで、本書は幅広い視点から有益な示唆を与えてくれる。
いわた・きくお
学習院大学経済学部教授。専門は金融・都市経済学。1942年生まれ。東京大学経済学部卒業、東京大学大学院博士課程修了。76~78年米カリフォルニア大学バークレー校において客員研究員を務める。83年上智大学経済学部教授。98年より現職。
筑摩書房 1260円 172ページ
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