キーマン明かす「宇都宮ライトレール」成功の鍵 利用者数は100万人を突破、今後の展望は?

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――公共交通の必要性についてはどのような観点から住民の理解を求めたのでしょうか。

年齢を重ねていくと自分でクルマの運転をすることも難しくなることから高齢化社会が進んだ先には、自分の力で行きたい場所に行けなくなる人がたくさん出てきます。そうした不安を「自分ごと」として感じてほしいと思い、宇都宮でも起こりうる問題だと住民の方には何度も何度も語りかけました。 

初めのうちは漠然としか伝わらない空気もありましたが、各所で説明会を重ねるにつれ、徐々に住民の雰囲気が変わっていきました。参加者の方がクルマの運転ができなくなった時のことについて危機感も広がり、住民のほうでも何か行動をおこさなければいけないと参加者の表情も変わっていきました。

説明会のほかには、パンフレットの全戸配布や大型商業施設ベルモールでのパネル展示も実施し、ライトラインは「ランドマーク」としてまちの魅力を高めるための装置となることにも理解が得られるように取り組みを行いました。

――しかし、宇都宮ライトレールでは建設反対運動も起こり、開業までには様々なハードルがあった印象があります。

建設に反対されている方とも説明会では膝を突き合わせてお話をさせていただきました。高齢化問題と公共交通問題は避けては通れず他人事ではないこと。超高齢化社会の到来が迫りつつある中、今後は運転免許の返納者数は増え外出したくても外出できない高齢者が増加することが予想されます。そうしたことから、分かりやすく利用しやすい都市交通の重要性がより一層高まるということを何度も訴えかけました。

さらに、百聞は一見に如かずということで、宇都宮市とも連携をしながら富山市で実際のライトレールを見ていただく機会を設けるなど、ライトライン建設への理解が得られるように取り組んできました。

――宇都宮駅東口―芳賀・高根沢工業団地間14.6kmの建設には、当初予定していた約458億円から、地盤改良や豪雨対策の強化などを理由に約684億円に増加し批判を招きました。

一般的にLRTの建設費はキロあたり約30億円と言われていますが、ライトラインの場合は高架構造物が多くキロ当たりの建設費は約47億円と上振れしました。

しかし、一方で道路建設費についても決して安いわけではなく、国道119号のバイパスである宇都宮北道路約5kmの建設には約500億円かかっており、キロ当たりの建設費は約100億円に上ります。ライトラインの輸送力と自家用車の輸送力を比較すると大きな差があり渋滞解消にも役立っていることから、こうした輸送効率を考えるとライトラインの建設費だけが決して高いとは言えません。

ライトラインの開業前には、鬼怒川にかかる柳田大橋が、朝、工業団地への通勤者で慢性的な渋滞を引き起こしており、宇都宮駅から芳賀町内まで1時間以上かかることも多い状況でした。こうした渋滞の解消にもライトラインは一役買っています。

渋滞する柳田大橋(写真:宇都宮ライトレール)

「歴史の当事者になりたい」と運転士が集まる

――2022年11月19日には試運転電車で脱線事故も発生しました。

脱線事故のときは私自身も事故復旧や対策内容の検討にも当事者の一員として関わりました。少しでも住民の方々の不安を解消し引き続き事業を応援していただけるように、情報を隠すことなく全面的に公開しました。

――日本各地のバス・鉄軌道事業者で運転士不足が深刻化する中で、宇都宮ライトレールだけが運転士の募集が順調だったと聞きました。なぜでしょうか。

日本国内では75年ぶりとなる路面電車の「新規開業」のインパクトが大きかったと考えています。こうした「歴史の当事者」となるべく全国から熱い心をもった職人たちが期待に胸を膨らませて宇都宮に集まってくれたのだと感じています。

――宇都宮ライトレールが誇りをもって働ける職場だと感じた方が多かったということでしょうか。

そうです。給与面については、ほかの軌道事業者や地元の民間企業等の実績を参考に設定していますが、ライトラインで「新たな道を拓きたい」と、積極的で前向きな社員が集結してくれました。さまざまな困難にめげず、開業までこぎつけてくれた社員一同は、今では日本一の軌道事業軍団だと自負しています。

――宇都宮ライトレールは最高速度が時速40kmに設定されていますが、もともとは時速70kmで快速運転をできるように設計されています。専用軌道の広島電鉄宮島線ではすでに時速60km運転が実現しています。

開業直後ということもあり、まずは安全な運転について実績を積むことに専念しています。速度向上に向けた国との調整は今後の課題ですが、全国の軌道事業者の間でも速度上限の一律緩和は長年の願いとなっています。今後は、ほかの軌道事業者とも連携し、軌道法ではなく道路法下での速度制限となるように、丁寧に働きかけていきたいと考えています。

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